実戦訓練-8
「戦いの基本は、とにかく戦わないことだ」
中庭で体育座りをして話を聞いていた、アオイとランファの顔が疑問一色に変わる。アオイに至っては「こいつは何を言っているんだ」と言わんばかりの呆れた眼差しさえ向けていた。
ガロードは茶化すことなく、その視線に真っ向から向かい合う。
「魔法だの白兵だので派手に戦果をあげりゃ、そりゃ確かに目をかけられることもあるだろうな。だがその分、敵方に目をつけられるのも当たり前の話だ」
ガロードは一呼吸入れてから、本当に伝えたいことを、できる限りわかりやすいように言葉に変えた。
「けどな、それ以上に“戦場に立つ”ということのプレッシャーは尋常じゃない。ただその場にいるだけで消耗するのさ。戦場ってのはな」
アオイの目から呆れが消える。ランファはいまいちピンと来ていないようだったが、ひとまずは良いと判断したガロードは、2人を立ち上がらせた。
「戦わないように、って言われても、やっぱりちょっとわからないですよ」
アオイが不安げに口にするが、ガロードは目をつむって集中を解かない。ランファと顔を見合わせたところで、ガロードが再び口を開いた。
「……まあ、そう言われるのは想定内さ。だからまあ、あれだ。一回体験してきたほうが早い」
「へ?」
ランファの気の抜けた声とともに、ガロードとランファの姿がアオイの視界からかき消える。さらに、ガロードのいた場所から、ドーム状に何か高密度の魔力が広がった。
(これ、前にアビスの人が使っていた結界──⁉︎)
咄嗟に頭部を守ったが、ドームに形成された魔力はアオイの身体をすり抜け、どんどんと大きくなる。アオイが目を開けると、目の前には荒れ果てた大地が広がっていた。
「ここは……?ランファ!ガロードさん!」
アオイが声を張り上げても、何の反応もない。土埃がもうもうと湧きたち、アオイはまともな視界を全く確保出来なかった。
だからこそ、アオイは気づけない。忍び寄ることすらせず、金属がぶつかり合う音を立てながら、何者かがこちらに迫っていた。
「いきなり何が──」
アオイは青ざめる。地面に落ちた影には、長い獲物が写り込んでいた。
アオイは死にものぐるいで振り返る。スローモーのようになった世界の中、銀色に煌めく不可避の一撃が、アオイの右肩に吸い込まれ──
「クッ……!」
瞬間、世界が反転する。
「……あれ?」
奇しくも、初めに目を開けた時と同じような姿勢で固まっていたアオイは、自分の怪我を確認した。
「ぼ、僕……」
今、確かに死んでいた。言外に理解した事実を、うまく処理できない。アオイは今さら震えだした手を抑え、今度は慎重に辺りの様子を探ることにした。




