実戦訓練-5
放課後の校庭。遅れてやってきたランファに、アオイは手を振り返した。
「ごめん、おまたせ」
アオイは首を横に振ると、改めてだだっ広い校庭を見回す。
「まだ特別講師の人が来てないみたいなんだ。時間前ではあるけど」
ランファはそれを聞くと、手鏡を取り出して身だしなみを整えた。
「ラッキーってことにしとこ」
手鏡を物珍しげに見つめるアオイにウィンクすると、ランファは振り向きざまに創り出した鉄棒を振り抜く。
アオイには一瞬、それが虚空で止まったように見え、直後そこから揺らぐように現れた男に度肝を抜かれた。
「うわっ⁉︎」
「鏡の一つも持っておくもんね……!アンタ、誰!」
男はランファの攻撃を優しく押し返すと、両手を広げて、どうどう、となだめるようにジェスチャーする。
「いや、いつ気がついてくれるかなあと思って待ってただけだから……。とりあえず俺の話を聞いてくれ、な?」
とぼけたように笑っていながら、男には隙がなかった。アオイがこっそり放った捕縛魔法を、男はあっさりと踏み潰す。
「だから落ち着けよ。俺が特別講師!聞いてない?」
まるで警戒を解こうとしない2人に苦笑すると、男は両腕を高くかかげ、抵抗しない素振りを見せた。
ランファは男から視線を外さず、ゆっくりと武器を降ろす。ほっとした様子で頷いた男は、そのまま一切の予備動作なしに、ランファの腕を捻り上げた。
「ランファ!」
思わず叫んだアオイを、ひと睨みでその場に釘付けにした男は、ランファの腕を捻り上げたままで2人を見比べる。
「まあまあ及第点ってところか?けど武器を降ろしちまったのはいただけないな」
「講師のくせに、教え方が下手くそなのを棚に上げて人を値踏みするな!」
妙にドスを効かせて声を荒げたアオイに、男が再び目を向けた。
(……あの眼帯。この子の方があの花の魔女のお気に入りか。なかなかどうして、親近感と忌避感を同時に浴びせられているようだ)
ランファの暴れを手の動き一つでいなすと、男は口を開く。
「悪いな、癖だ。それにほら、教える立場上、お前たちの力量は知っておいて損はないだろ」
アオイの眉が動いた。男は再び暴れようとしたランファを抑えようとするが、放たれた肘鉄を完全には避けきれない。ランファは全身の力で男の拘束を振りほどいた。
「おいおい、無茶する──」
男は苦言を呈そうとして、腰に当たる感覚に顔を歪める。男の視線の先で、雷の角がバチバチと音を立てて空気を焼いていた。
「精霊──!」
それに気づいた瞬間、男の視界が白に染まる。
「あががががががががががががが‼︎‼︎」