二人の魔女-3
「ミルティ、あの子たちが何か……?」
「とてつもない魔力を感じた気がしてるの。それも、とっても良くないもの」
シオンは困った顔になる。それを見て、比較的元気な子どもたちは居心地が悪そうに顔を伏せた。
「むう、幼子を疑うなど、あまり気分が良くないぞ」
「シオンちゃん、────の気がしてるの」
「なんだと!?か、考えすぎじゃろう、さすがに」
しばらく二人の魔女たちは話し込むが、やがて意を決して子どもたちへと近づいていく。後ろではようやく、先のトカゲ人間の恐怖を飲み込めたらしく、軽い騒ぎが起きていた。対応に追われる憲兵たちの合間を縫い、人攫いの被害に遭った子どもたちを励ましていた憲兵の一人を捕まえる。
「そこな小僧」
「は、はい!魔女様、何用でございましょうか」
「普通に名前で呼べ……と、そうではなかった。あの子の情報はなかったか?どこから攫われた子じゃ」
シオンは、元気を完全になくし、壁にもたれ、いや、もはや立てかけられている状態の、瀕死の少年を指さした。
「は───あ……。それが、その……」
「なんじゃ。はっきり申せ」
「……身元が特定できませんでした」
その言葉に、二人の魔女の表情が曇る。
「それは、また」
「ただ、実は私も気になっておりまして」
「む?」
「今回、被害にあった子どもたちは誰もが魔術の名家の出身者です。確認の取れたところでも、大半が家から捜索願の出されていた子どもたちでしたよ」
「そんな中で身元不明───。ふむ、確かに枝毛程度には気になるが、おおかた孤児院や修道院で預かっていた子ども……」
憲兵はそれを聞いてうつむいた。
「私も、そう思ったのですが……。あの子だけは、どこからも、いつの記録からも、一致する特徴を提示された捜索願が出されていないのです」
「……ふむ?」
言葉の意味を測りかね、シオンは微妙な顔をする。しばらく憲兵と子どもを見比べると、つかつかと子どもに歩み寄った。
「う……これはひどいな。目を潰されている」
「え!?シオンちゃん、少しどいて!」
「何を言うか。儂とて心得はある」
「内臓はデリケートなの!」
有無を言わさずにシオンを押しのけ、ミルティは淡い光を宿した手で、窪んだ瞼の上をそっと撫でた。左目も同じようにしようとしたところで、ミルティの手が止まる。
「どうした?偉そうに言っておいて、失敗でもしそうか?」
シオンは嫌味たっぷりに茶化すが、ミルティは首を横に振った。
「この子の左目、何だか変なのよ。何というか、まるで眼球が二つ存在しているみたいな……」
「おぬし、儂をからかいたいのはわかるが、さすがに笑えない冗談だぞ」
シオンはうんざりした表情を浮かべ、子どもに歩み寄る。
「ひどいなあ。そんな質の悪い嘘つかないもの」
「はいはい。この眼帯が邪魔じゃな」
シオンが眼帯に手をかけ、血で肌にこびり付いた布を剥がしていくと、次第にその下の窪んだ瞼があらわになる。
「可哀そうに。この様な野蛮な真似、まともな奴隷商人ならばとても行わぬ。せめて不幸を恨めよ」
そうして布を剥がし切ったシオンは、そしてそれを覗き込んでいたミルティは、絶句した。
「…………」
「───なんだ、これは」
その子どもの左目は尋常ではなかった。睫毛が上下二組、瞼が眼球の半分を横切るようにして存在している。
それは紛れもない異常であり、とてつもない気味の悪さを感じさせた。二人の魔女は、ただ唖然とすることしかできない。だがその子どもは確かに、人と同じように呼吸を繰り返していた。