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シンの魔法使い  作者: さんくす
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実戦訓練-3

「それなら、封印が甘くなっていたというのは、いったいどういう──」


「アオイ、そこまでにしてくれ」


 アオイが続いて尋ねようとしたことは、拒絶するようなアルマの声に阻まれる。

 アルマの目には、アオイが今まで見たことがないような力が宿っていた。アオイは気圧され、口を噤む。


「悪いな。そればかりはさすがに俺だけの問題にさせてもらう。……トリアイナ様、私はこれで」


 そして一方的に話を打ち切ると、アルマはトリアイナに頭を下げ、バケツを置くとそのまま廊下の向こうへ駆け出していってしまった。


「え?ちょっと、アルマくん!」


「ちょいちょい!さすがにやめとき!」


 追いかけようとしたアオイを、今度はランファが引き留める。


「で、でも!」


「家の問題に首突っ込まない方が絶対にいいって!貴族ってそこらへんマジでめんどくさいんだから!」


 アオイに反論できる手札はない。貴族という構造すら、アオイにとっては伝え聞いた話に過ぎず、今しがたトリアイナから聞いたことと照らし合わせて、その立場を推測する他なかった。

 しょぼくれてしまったアオイを眺めた後、トリアイナはその足を地につける。


「……アオイ。キミは“帰りたい”んだったね?」


 突然の問いに、アオイはただ困惑する。トリアイナの翡翠の瞳は、不思議な輝き方をしていた。アオイはまるで自分の頭の中を見透かされているような居心地の悪さを覚えて目をそらす。


「うん。そうだよね。訳が分からないはずだ。物分かりが良すぎてちょっと警戒してたくらいなんだけど、思ったより普通で安心した」


「僕、そんなことを話した覚えなんて──」


 アオイの悪あがきはトリアイナに口を塞がれたことで止まる。トリアイナは降ろした手を腰に手を当てると、アオイを改めて見つめた。その瞳は先ほどのように不思議に輝いてはいない。


「さて、それでだ。ボクとしてはキミと契約する用意がある。ボクの力を借りるつもりはないかい?」


「────」


 その場に残っていた三人は絶句した。

 実精霊との契約。ダンテですら、反応するのに時間を要するほどの衝撃だった。


「そ、れは……どういう……。ガンダルフとは縁を切ると?」


「勘違いしないで欲しいなあ。この子と契約するのはあくまで()()だ。トリアイナという実精霊全体を指すわけじゃない」


 アオイは眉を動かす。アオイの中の精霊術の常識を遙かに逸脱した話をしていると思い込んでいたからこそ荒唐無稽に思っていたが、トリアイナの言葉で、アオイの中である疑問が持ち上がった。


「もしかして実精霊って()()()()何ですか?」


 しかし、アオイはそう言ってから、自分がおかしなことを口走った気がして口元を抑える。そんなアオイを、トリアイナはまじまじと見つめた。


「……シオンが気に入るわけだ」


「え?」


 師の名が飛び出したことに驚いていると、トリアイナはアオイに微笑みかける。


「うんうん。やっぱりボクはキミとなら契約したいなあ」


 アオイが答えに困っていると、ダンテがアオイをかばうように前に出た。


「縁を切るわけではないといいながら、アオイに肩入れする理由は何なのですか」


 強い口調で、糾弾にもとれる声音で、ダンテは口火を切る。


「もしアルマに危機が迫っているのなら、あいつに力を貸すのが筋でしょう!あなたはアオイに何をさせるつもりなんですか!アルマを見殺しにしてまで!」


「ふうん。そこまで気づいていて、それをキミが言うのか」


 アオイは息を飲んだ。アルマに危機が迫っている。それだけでも頭がいっぱいになりそうなのに、ダンテとトリアイナは一触即発の雰囲気だ。


「……ああ、そう言うこと。つくづく悪趣味。トリアイナ……は、アオイと契約ができれば、それ以外どうでもいいのね」


「そ、そんな!そんなのダメだよ!アルマくんが危ないんでしょ⁉︎」


 ランファがダンテとトリアイナを睨め付けるが、トリアイナはどこ吹く風だ。


「……僕が契約するなら、力を貸してくれるんですよね」


「アオイ!こんなに胡散臭いのに乗る気⁉︎」


 ランファは驚いてアオイを止めようとする。だが、アオイはかぶりを振った。


「今大事なのはアルマくんだ!そのあとのことは、その時に考える!」


「そんな無茶な──」


「いい判断だ」


 ランファを遮り、悔しげな表情でダンテが言う。

 ランファが苦言を呈そうとするのを手で制し、ダンテはアオイに顔を向けた。


「そのつもりなら、はっきり言っておかなきゃならない。今回の件、俺は一切の関与をしない」

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