実戦訓練-2
「やあやあ生徒諸君。アオイ以外は初めましてだねえ」
トリアイナは気軽に手を振った。それを、あんぐりと口を開けた子どもたちが出迎える。
実精霊が目の前にいる事実と、気さくに話しかけてきている事実が、彼らの中で齟齬として膨れ上がっていた。
「俺……俺は夢でも見てるのか?」
アルマが頭を抱えたことで、ランファもまた混乱を表に出す。
「え?え?え?なん……何でこんな気軽なんですか?」
「ボクは結構人好きだからねえ」
「あー……そうなんですね……?」
ランファは本人にそう尋ねた挙句ぽかんとした表情で固まってしまった。アオイは後ろの阿鼻叫喚に驚きつつ、トリアイナに問いかける。
「突然どうしたんですか?」
トリアイナは嬉しそうな笑顔をアオイに向けると、ふわりと浮き上がってアオイを腕の中に収めた。
「いやなに、勉学に励むキミの姿を見てみたくなったのさ。本当は姿を隠したまま見守るつもりだったんだけど、なかなか愉快なことになっているみたいだったからね」
アオイはばつの悪そうな表情を浮かべるが、トリアイナは気にせずにアオイを抱えてぐるぐると回る。だがトリアイナは、アルマの表情が硬くなったのを敏感に察知して止まった。
「なんだい、まるで懺悔前の罪人のようじゃないか。ガンダルフの血の男」
「……私を糾弾なさりたいのであれば、どうぞご自由に。しかし、私の意図するところは別にございます」
トリアイナの意地悪な笑みに、アルマは改まった調子で答える。アオイが困惑する中、ダンテがアルマを庇うようにほんの少し動いた。トリアイナはそれを不思議そうに眺めたが、特に問うことはせず首を傾げる。
「あなた様の封印が解かれた理由。封印を預かる家の身として、それを伺わないわけにはまいりません」
アオイが目をぱちくりさせていると、トリアイナはアオイを降ろしてアルマに近づいた。
ダンテが身じろぎするが、一睨みされただけでそれ以上のアクションを封じられる。
「なぜ、と問うのか。ならばこう答えるべきだろうな。我の封印は随分と甘くなっていた、と」
「────!!」
アルマの顔がこわばり、みるみるうちに血の気が引いていく。頭を振り、抱え、呼吸まで乱れ始めたアルマを、アオイはどうすることもできない。
代わりに、アオイはトリアイナに矛先を向けた。
「どういう意味なんですか」
トリアイナはアオイを降ろすと、その手でダンテとアルマの両名を指さした。
「王家の血に連なる者たちは、何も権力抗争でその立場を得たんじゃあない。その辺はむしろ後からついてきた方で──こんな話は当人から聞けばいいか。端的に言うと、ボクの悪い側面を封印、その管理の担当がガンダルフの血の彼、それらすべての監督にあたるのが、王家の血筋、という話さ」
アオイは言われたことを噛み砕いて考える。一つ、彼には思い当たることがあった。
「……それで、自然の暴力装置。実精霊が強い力を秘めていて、人間に肩入れしないはずっていうのは知っていたから、違和感があったんだ……」
アオイの独り言に、トリアイナは満足そうにうなずいた。
「そう。都合のいい力なんてあるわけないのさ」