実戦訓練
「いやあ……空がきれいだ」
アルマのぼやきに、アオイはつられて廊下の窓から空を見る。その両手には水の入ったバケツが提げられており、その目は退屈で虚ろに染まっていた。
「アタシ完全にとばっちりじゃんね」
アオイの右隣りでランファがぼやく。
「それは謝ったじゃあないですか」
さかのぼること数分前。班でのマジックアイテム作成中、アオイとアルマの分が突如として爆発した。
──実際は両名の不注意によるものだったのだが、それを見たダンテとランファはアビスによる策略と勘違いし、魔法を行使。教室は一気に混乱の渦中に陥ってしまった。
戦々恐々としながら自己申告したアオイとアルマ、火種を作ったとしてダンテとランファ合わせて4名が反省として廊下に立たされている。
「ちょっとまだアロマの効果が残ってたのかな……。不注意でこんなことになっちゃって、ごめんねみんな」
アオイが申し訳なさそうに言うと、ランファがまじまじとアオイを見つめ、首を反対に向けた。
「ねえちょっと!アルマ聞いた!?これだよ、心からの反省と謝罪って!」
「おう、悪い」
アルマの滑らかな返事に、アオイの左隣で、ダンテは思い切り顔をそらす。ランファには聞こえていないようだが、ダンテの鼻息が思い切り乱れていた。
「はぁ、コイツほんとないわ」
「軽い……軽すぎる……」
結構な侮蔑の眼差しを向けられても、アルマはどこ吹く風だ。ダンテが笑いを堪えるのがなかなか厳しそうになってきている中、ランファがアオイに目線を揃えた。
「それに対してアオイはもう!ほんとマジで好き!超いい子だもん。ねえ、弟にこない?」
「ええ?いや、僕は──」
否定しようとしたアオイは、ランファに思い切り頬を押し付けられて黙らされる。冗談で言っているんだなと理解したアオイは抵抗を止め、彼女の満足のいくまで頬ずりさせた。
「まあ、家族に迎えたいという気持ちはわかるな。アオイ、卒業したら我が家に来るか?」
いつの間にか復帰したダンテもダンテでそんなことを言い出し始める。目が笑っていなかったことが気がかりではあったが、アオイは笑ってそれを受け流した。
「家族かあ。人間のそういう繋がり、ボクも好きだよ」
「僕も、家族がとても大事なんです。だからどうしても──!?」
自然に割り込んできた声に、アオイは驚いてバケツを取り落としかける。
「おっと」
風が吹き抜けると、バケツは中身をこぼすことなく宙に留まっていた。
「やあやあ、驚かせちゃったかな?」
アオイとランファの間に突然現れたのは、人型で、腕に翼を生やした女性。鳥のような逆関節と鱗に覆われた足。
「トリアイナさん!?」
驚愕に彩られていたアルマたちの顔が、畏怖と衝撃が入り混じった表情に変わる。
「ええええええええ!?」
廊下に三重奏が響いた。