トリニウス魔導校-15
微動だにしないスーツの男の脇を、魔法が自ら避けるようにしてすり抜けていく。
それを見て、男の笑みはさらに深まった。
「んんー!実に、実に実にお優しく!あまりにも芳醇な“友情”の香りですねえ」
「…………」
ダンテは歯を食いしばり、男を睨みつける。
「友達は殺せませんよね。ええ、大事で当たり前のことです。良く教育が行き届いており、大変素晴らしいことと存じますよ」
アオイを握る男の手の力が強まり、アオイが悲鳴を押し殺した。
構築していた術式を解き、ダンテは力なく腕を降ろす。
「いやはや、楽で大変結構なことです」
対して、男の腕は上がっていく。わざわざゆっくりと魔術式を組み上げ、ダンテに屈辱を与える。
そして、一切の防御手段を取らなかったダンテを、痛烈な一撃が襲った。
「ダンテ!」
もんどりうって吹っ飛ばされるダンテに、アオイは思わず叫ぶ。彼は倒れたまま返事をしなかった。アオイが再度暴れるも、男の手は振りほどけず、アオイは焦りを募らせる。
「ええ、ええ。じっくりと絶望に目を染めるがよろしいかと。そのあとで、あなたの頭蓋を持ち帰らせていただきますからね」
男は何でもないことのように言う。そして、再度放たれた魔法は──
「がはっ……」
ダンテの腹部を貫き、その腹から鮮血をまき散らさせた。
「さてさて、これで──」
男は、とっさにアオイを掴んでいた手を離す。そして、左手から白煙が上がっているのを見て、初めて痛みを自覚した。
「これは……」
大規模の魔力の奔流。スーツの男は静かに距離を取る。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
次の瞬間、アオイから爆風が飛び、スーツの男に叩きつけられた。
「ほほう。シン魔法ですか!やはり逸材!」
アオイから放たれる熱波を笑いながら見つめると、スーツの男は身だしなみを整える。
「彼が炎に巻かれる前に、きちんと締めなければもったいないですね」
「──殺してやる!」
激情に呑まれた炎が、あちらこちらを手当たり次第に焼き、アオイに炎を介して繋がった。
背中から炎の尾を伸ばしたアオイは、それをバネにして男に飛びかかる。男は手をほんの少し動かすと、土の壁を作り出した。
「おや」
しかしそれはアオイの足止めにすらならない。あっという間に残骸と化した土くれの中で、赤く染まった髪の毛が揺れた。
アオイが男の腰を捕まえると、一瞬で男の身体が燃え上がる。さしものスーツの男も、これには顔を歪めた。
炎を吸い込まぬように口を閉ざした男は、アオイを膝で蹴り上げる。口に溜まった血と唾が衝撃ではじき出されるが、アオイはその腰を掴んで離さなかった。
「ぐぅぅぅうう!」
そのまま地面に男を引き倒したアオイは、男の顔を掴んで、頭を地面に擦り付けさせて走る。
「ガァァア!」
そして宙へと放り投げ、尾の炎を全て拳に溜めた。
巨大な炎塊と化した拳が、男を捉える。炎はバーナーのごとく力を放出し、その火力で男を焼いた。