トリニウス魔道校-14
スーツの男を見失い、愕然とするダンテ。アオイは地面に手を当てて魔法陣を描いた。
「《探知警戒》を……しまった!」
慌てて魔法陣を消したアオイだったが、それでも判断は遅かった。
「残念賞。気づいたのは良かったですがね」
背後から聞こえた声に、アオイもダンテも、防御が間に合わずに叩き伏せられる。
「がっ!」
「ぎゃぷっ!」
ダンテは辛うじて弾き飛ばされる程度で済んだが、立ち上がるのが遅かったアオイは、顔から地面にめり込んでいた。
「アオイ!」
そんなアオイを見て、スーツの男は人の良さそうな顔を歪める。
「おやおやおやおや。どうしたというのです?」
アオイへと歩み寄ると、スーツの男はアオイの髪の毛を掴み、顔を上げさせた。
アオイは顔が擦り傷と打撲でぼろぼろになっており、口の中を切ってしまったのか、口から血を流している。
「く、そ……離せ!」
迂闊に動けないことを察したダンテは、ただ吠えることしかできなかった。
スーツの男はそんなダンテを気にも留めず、アオイの顔を覗き込む。
「ほお……ずいぶんと杜撰な封印を施されていますね。それで何を守るつもりだというのですか!」
そして抵抗しようとしたアオイを打ち据え、その左目の眼帯に手をかけた。
「やめろ!!」
アオイが今まで見たことないほど取り乱し、絶叫する。長めの髪が千切れることも厭わず、無理に逃れようとする姿は痛ましくすらあった。
だがそれゆえに確かな隙が生まれる。ダンテは己の冷静さを呪いながら、静かに術式を構築した。
「チッ。暴れるんじゃありません、よ!」
「ガッ⁉」
再度地面に叩きつけられ、アオイの力が緩んでしまう。その一瞬で、アオイは己の眼帯が剥がされたことに気が付いた。必死に左目を髪の毛で隠しながら、スーツの男を睨む。
「返せ。──返せ‼」
「そう怖い顔をなさらないでください。ちょっとした知的好奇心です」
そうして、すさまじい力でアオイの腕をひねり上げる。左腕で全体重を支える羽目になったアオイは苦痛に顔を歪めた。
「ほうほう……これはこれは」
スーツの男の嘲りの声を聞いて、アオイは顔が赤くなるのを痛みと共に感じる。悔しさであふれた涙を拭うことすら叶わず、アオイはただ男に激しい敵意を向けた。
「《雷円刃》!」
男の意識が完全にアオイに向いたことを契機に、ダンテが魔法攻撃をしかける。雷の刃が回転し、地面をえぐりながら男へと迫った。触れれば切断、近づいても雷撃によってその身を焼かれる凶悪な魔法だ。
男は顔をダンテに向け、迫りくる魔法を見て──笑う。