トリニウス魔導校-13
「──イ!アオイ!」
耳元から聞こえた声で、アオイは風の中から現実へと引き戻される。
「……ダンテくん?」
「大丈夫か?こんな場所で立ちつくしているから、何かあったのかと……」
アオイは目を瞬くと、辺りを見渡した。アオイが迷い込んでいたはずの雑木林は、忽然とその姿を消している。
「……本当に平気か?」
ダンテの心配に、アオイは頷いた。
「大丈夫。たぶん」
「たぶんって……」
苦笑したあと、ダンテはアオイをしばらく眺め、満足いったように頷く。それから左手を伸ばして指差した。
「あそこだ。あっちに強い魔力の流れがある。結界を破損させたことが有利に働いたな」
アオイはダンテの指差した方を見て、眉をひそめる。
「誰かいる」
「おそらく首魁だろう。準備は?」
アオイが頷いたのを見て、二人は並んで歩き出す。
「アオイ。君の精霊はどうした?」
「無理やり還された。援護は望めそうにないよ」
「そうか──」
ダンテが何事かを続けるよりも早く、アオイは飛んできた火球を弾き返した。
「っと!すまない!」
ダンテはすぐに、よろけたアオイのフォローに入る。続いて飛んできた魔法群を、障壁を用いて後ろへと受け流した。
「いやはや、こんな子どもに結界を破られるなどとは、私も落ちたものだ」
「なっ……⁉︎」
顔を上げたアオイは驚愕する。落ち着き払った声とともに、スーツ姿の男が現れたのだ。黒い上下のスーツも、その中に着ているワイシャツも、首に付けているネクタイすら、アオイの見覚えのある──母親と居た世界で見たものと同じものに見えた。
「その服……薄汚い殺人集団どもが!」
ダンテがその姿を見て、憎しみを露わにする。対してそれを見たスーツの男は、人の良さそうな笑みを浮かべた。
「これはこれは。コルネリア殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅうございます」
ダンテは歯を食いしばり、鼻息荒く、今にも突撃せんとしている。アオイはそんな彼を不思議に思いつつ、質問を投げかけた。
「アルマくんはどこですか⁉︎貴方はいったい何なんです!」
スーツの男はアオイを見ると、その顔を醜悪に歪め、目を驚愕に見開き、口を喜色に染める。
「おや。おやおやおやおや!ずいぶんと不気味なマナをまとった方ですねえ!──その左目、研究のために抉り取らせていただきたい」
ダンテは引きつったアオイの肩を叩いた。
「あいつらにまともな会話は成り立たない!ぶっ飛ばして、拷問でもして口を割らせるしかないんだ。やるぞ!」
「……くっ!」
アオイとダンテは、加減を排しての高速詠唱にかかる。
「《雷──」
「バーン!」
だが、それよりも早く、二人の足元の地面がめくれ上がる。
突然足元が不安定になったせいで、二人の放つ魔法は明後日の方向に飛んで行ってしまう。
「姑息な真似を!」
たたらを踏みつつ、アオイよりも早く態勢を立て直したダンテは瞠目した。
「いない……!どこに行った⁉︎」