トリニウス魔導校-9
「……だいたい三本の矢作戦だ。しくじるなよ、僕」
ドームの頂点。魔力の淀みの上、雷のアンカーの上に器用に立つ精霊と、その術者が地面を覗き込んでいた。
「中の様子が全くわからないな……。本当にぶっつけで行くしかないのか」
モタモタしている暇はない。ダンテの届けてくれたこの場が、どれだけ持つかわからないからだ。アオイは覚悟を決めて、チリシィの首を叩く。
「お願い!」
直後、チリシィは垂直に飛び上がる。寸分違わずまっすぐ縦に飛び上がったことを確認して、アオイはしっかりとチリシィの胴に足を固定して、上体をのけぞらせる。
逆さまになった世界の中、見るべき光点はバチバチと形を変えて輝いていた。
まずは、第一の矢。
「《氷塊》!」
両手を広げ、岩石のごとく巨大な氷の塊を生成すると、アオイはそれを軽く押し出してやる。
自由落下で真下に落ちていった氷は、狙い通りに雷のアンカーへ突き刺さった。アンカーの先端が重力と質量によって凄まじい力をドームに伝えると、結界に白いヒビが入る。
「よし!」
だが、変化はそこまでであり、結界の破砕にまでは至らない。アオイもそこまでは想定済みだった。
(思ったより耐久力がありそうなのが計算違いだけど……)
逆さまだった世界が逆転し、アオイの視界が雲と青色の空に満たされる。流れた汗を空に残して、アオイは今度は雷の精霊の首に腕を回した。
「行くよ、チリシィ」
動物のような鳴き声や嘶きはない。それでもアオイには、チリシィが頼もしい返事をしてくれたように思えた。
チリシィは垂直に、元いた場所へ全力で着地する。精霊は魔力の塊だ。ただの移動だけでも人間とは桁違いのエネルギーが発生し、周りに影響を及ぼす。
アオイはそれを第二の矢とし、初めからそれを狙って跳躍していた。
「さあ、どうだ!」
着地。すさまじい魔力的な負荷の発生で、ドームが明らかにその形を歪める。
(まだ足りてない!──ならば!)
アオイは、その瞬間を見計らって精霊に己の魔力を少しだけ流し込んだ。そうするだけで、周囲の空気が電気を帯びたように感じられ、鳥肌が立った。
それは錯覚ではなく、実際に変化として起ころうとする。それが、アオイの考えた三本目の矢だ。
「──っ!」
アオイが身構えた時、雷がアオイと精霊ごと地面を貫いた。
空から地面へ向けて、そして地面から空へ向けて、二つの雷を、精霊を避雷針とすることで発生させ、結界の弱点を灼いたのだ。
「こ、怖い!チリシィのおかげで大丈夫ってわかっててもやっぱりめちゃくちゃ怖い!」
耳をつんざく轟音に軽い悲鳴を上げるアオイ。それは突如訪れた浮遊感によって更に大きくなる。
見れば、ドームの頂点で魔力の淀みが発生した場所が、割れたガラスのように抜けていた。
「ひぇえええええ!」
アオイは精霊にしがみつき、結界の中へ落下していく。




