トリニウス魔導校-7
「───────っ‼︎」
声にならない悲鳴とともに、アオイはベットから上体を起こした。
自分というものが緩やかに溶かされていくような、おぞましい感覚の残り香に、思わず身震いする。咄嗟にルームメイトの方に目をやるが、アルマはとっくの昔に起きて部屋を出て行っていたようだった。
(……あれは夢だ。ただの……夢のはずだ)
この呼吸の乱れも、結局はアオイが夢で見た内容を反芻して動揺しているに過ぎない。しかし、そう思い込もうとしても、不安は広がる一方だった。
「……まあ、早めに動いてバチは当たらないもんね」
自分に言い訳をすると、アオイは逸る気持ちを抑えて身支度を整えた。
慌ててくぐった教室のドアの向こうでは、一組の男女が話し込んでいる。
「おや、アオイくん」
ダンテが朗らかにこちらに手を振ってきたので、アオイもまた振り返した。その様子を見ていた女生徒は、ダンテに何事か告げると、優雅に一礼して教室を出ていく。
すれ違いざま、アオイは彼女の視線を感じて、何となく見つめ返した。だが特に会話もなく、入れ違いにダンテに話しかける。
「おはよう、ダンテくん。あの人は?」
「ん……まあ、知り合いだよ」
少し歯切れの悪いダンテに疑問を抱きつつ、アオイにはそれ以上に気にかかっていることがあった。
「アルマくんはいないか」
小さな声であっても聞き逃さなかったダンテは、アオイの顔を覗き込む。
「珍しく早いなと思ったけど、アルマがどうかしたのか?」
アオイはダンテを見つめ返し、しばらく唸ってから、お手上げの仕草を取った。
「実はさ──」
アルマから伝え聞いた顛末を話し終えたアオイは、改めて教室を見回す。
「……なるほどな」
ダンテの独り言にアオイが顔を向けると、彼はいつもより少し険しい表情をしていた。アオイが口を開くよりも早く、ダンテは教室の外に向かって歩き出す。
「どこへ?」
アオイが尋ねると、ダンテは逡巡した。アオイはダンテに詰めよる。
「僕にとってもアルマくんは大事な友達だよ」
ダンテは呆気に取られた顔をして、それから笑った。
「そうだった。……ついてきて」
「わかった!」
言うが早いか、ダンテは俊足の加護魔法を己にかけてトップスピードで走り出す。アオイは雷の精霊チリシィを呼び出すと、それに飛び乗った。
「ダンテくんを追いかけて。お願い」
精霊はアオイの命令をすぐさま実行に移す。並走してきたアオイを一瞥すると、ダンテは窓の向こうに見える校庭を指さした。
「妙な結界が張られている。先生たちが気付かないわけがないだろうが、どうにも様子がおかしい」
教室棟の廊下の角を曲がり、大廊下へ差し掛かると、ダンテは正面の大窓を魔法で操作して開く。
「ショートカットしていこう!」
「うん!」
アオイとダンテは、大窓から屋上へ出ると、落下防止の柵を飛び越えて、直下の校庭へ身を躍らせた。




