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シンの魔法使い  作者: さんくす
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トリニウス魔導校-1

 終業のチャイムとともに、教室内の空気が弛緩する。アオイは教科書や筆記具をまとめると、支給された革鞄に優しくしまった。

 幾人かのグループがまとまって教室を後にする中、アオイは静かに目を閉じて、今日の授業内容を反芻する。入学以来、この静かな時間が、アオイにとって至福のひとときとなっていた。


「アオイ!悪い!教えてくれ!」


 それゆえ、降って湧いた大声に、アオイはため息を漏らさざるを得ない。


「いいけど、また……?」


「おう、悪い……」


 緑色の髪の少年は、申し訳なさそうに改めて頼み込んだ。


「頼む!マナ理論値の実証公式がマジで意味わからん!このままじゃ考査がマズイ!」


 鬼気迫る表情で頭を下げる彼の名は、アルマティ・ガンダルフ。

 王都中央議会に議席を持つ、有力貴族ガンダルフ家の御曹司であり、いまだ少年の身でありながら、内外から絶大な支持を受けている次代の星と呼ばれる少年である。


「アルマくん、相変わらずそこダメだよね」


 アオイにとっては雲の上にも等しい存在でありながら、アルマの持ち前の奔放さが、彼らの壁を取り払っていた。


「何で頭に描いた式を発現する際に体内マナを大気マナで置換できるんだ?」


 教科書を広げ、どっかりとアオイの対面にアルマが座る。


「えっと、体内マナと大気マナの純度の違いの話であってるかな」


 アオイも居住まいを正して、アルマの教科書を覗き込んだ。


「ああ、うん。そうだね」


「純度に差があるのに置換できるのもよくわからんし、そもそも純度が違えば代用品にはできても、そのものとして扱えるのは変じゃないか?」


 アルマの疑問に、アオイは頷く。


「ああ、その気持ちわかるよ。僕も同じこと思った」


 アオイは、授業で習った内容と、シオンから教わった概念を照らし合わせ、噛み砕きながら説明することにした。


「まず、マナは普遍的で不変なものなんだっていうのは大丈夫?」


「ああ。マナは消費されるものじゃない、絶対原則だな。まあその程度は」


 自信満々のアルマに笑いかけつつ、アオイは教科書の一節をなぞった。


「それで、たぶんだけど、アルマくんはここの『マナのエネルギー消費時の方程式』で引っかかってる、ってこと?」


「そう!そこ!まさにそこ!」


 アルマが過剰に反応してくれるのを楽しく思いながら、アオイは続ける。


「体内マナと大気マナは基本的に表記が違うだけって認識して問題ないと思うよ」


「や、だからそれがよーわからんのだ」


 アオイは目をしばたたいた。


「確かに体内マナと大気マナはある場所が違うだけっていうのは何となくわかる。ただ、ならどうして体内と発現した魔法のマナのエネルギー消費がトントンになるのさ?」


 アルマは首を傾げる。しばらく教科書の説明を指でなぞっていたが、そのうち余白部分を指の腹で叩いて唸りだした。


「だってよ、体内で練り上げた魔力を外で発現するんだぜ?マナ移動計算式とコストは?物体干渉系には必須なのに、どうして発現するときには必要ないんだ?」


「だって、そもそもが違うもの。だからマナ純度の話になるんだよ」


「……?」


 アルマの据わった目を見て、アオイは苦笑する。


「僕たちの体内のマナが、大気マナより濃いように、物体に含まれるマナも大気マナより純度が高いんだ。で、物体に含まれるマナ純度は僕たちのマナ純度とも違う」


「おう、そうだな。そんで、物体干渉の魔法じゃあコストがかかる。それはわか──あ、そうか。()()()()()()()()()()()か」


 言いかけて気付いたようで、アルマは目を輝かせた。だが、すぐにまた表情が曇る。


「なら余計にどうして大気マナに作用するときにコストがかからないんだ……?」


 アルマのぼやきに、アオイはむしろ安心していた。これならば、説明もしやすいというものだ。


「そんなに難しくないよ。容量が違うんだもの」


「容量?マナの?どういうこった」


「星自体のマナは、俺たち人間の比じゃない。だから、干渉する際にコストがかからないんだ。星にとっては僕たちもその一部だから、余計にね」


 アオイは一度アルマの反応を伺ってから、ゆっくりと続ける。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことだ。だって、仮に僕が適当に炎の魔法を宙に浮かせたとしても、それだけで世界がまるっと燃え上がりはしないでしょう?」


「────あ。ああ!そうか!そういうことか!大気マナが集まって魔法を発現しても、星全体のマナに()()()()()()()()のか!だからエネルギーが発生しない!発生しないエネルギーのコストは払いようがない!なぁるほどぉ!」


「そう!そういうこと!よかった伝わった!」


 シオンに言わせれば、厳密に言うなら違うらしい。しかし、アオイの理解ではここが限度であり、シオンからも、その解釈で概ね正解であるという太鼓判をもらっていた。

 アオイはうまく説明できたことに胸をなでおろす。


(勉強しておいてよかった)


 アオイは心の底からそう思った。

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