編入試験-6
「とまあ、散々脅かしましたが、今すぐどうこうなるというわけでもありません。人はいずれ死ぬものです」
「……それでもすぐに死んでしまうのは嫌です」
アオイが静かに、それでいて強い口調で答えたのを見て、ロイは再び優しく微笑んだ。
「アオイくんが今日明日に命を落とすということはよほどのことがなければあり得ないでしょう。それでも死を恐れるのなら、それまでにやれることを精一杯やることが肝心ですよ」
「死ぬまでにやれることを?」
途方もない話だ。アオイは少し考えこもうとして、すぐに思い出す。
「──僕は、お母さんに……」
母親にもう一度会いたい。そう言ってしまうのは簡単で、でもだからこそ憚られた。
アオイは首を少し振ると、笑顔を浮かべる。
「探してみます。できるだけたくさん」
「ええ。ゆっくり探せばよろしいかと。学び舎は、ただ学ぶためだけではなく、人と人との関わりを半ば強制的に持つことのできる場所ですから。今の貴方にはできない考えや出来事が溢れているはずでしょう。僭越ながら、お手伝いいたしますからね」
すっかり元気を取り戻したアオイを見て、シオンが後ろでほっとしたように息をつく。
「……ん?それはつまり、あれで合格だと?」
頷いたロイを見て、アオイの顔が輝き、次の瞬間にはシオンの髪の毛にからめとられていった。
「うおおおおおお!よくやったぞぉ!」
首がもげてしまいそうなほどの勢いで撫でくりまわされるアオイだったが、その表情は明るいままで、ロイはとりあえず一息つく。
(これは、こちらも筋金入りだ)
そのタイミングで、扉のノックがロイの耳に届く。ロイが入室許可を出すと、すぐさまイミナが書類を持ってドアを開けた。
若干眉を動かしてイミナに抗議するロイだったが、イミナはどこ吹く風といった調子で、ロイは苦笑で誤魔化す他なかった。
「こちらの書類を確認していただいた上で、サインしてくださいね。ご不明な点がございましたら、遠慮なく聞いてください」
アオイが覗き込もうとすると、すぐにシオンが取り上げる。アオイが何事か言う前にサインを済ませたシオンが書類を突き返した。
「問題あるまい?」
挑発的な物言いにも、ロイは笑顔を崩さない。
「ええ、もちろん。では、イミナくん。彼に寮の案内をお願いします」
「はい!ではこちらに、アオイくん」
「あ、はい!……寮…?」
そのまま二人が出ていくのを笑顔で見送って、シオンは窓の外を眺めた。
「──待て。寮だと?」
「ここは全寮制で運営しておりますが……」
シオンの顔から一気に血の気が引く。
「聞いておらぬぞ!」
「書きましたので……」
ロイに言われてようやく、シオンはものすごいスピードで書類に目を通した。あるページで動きが固まると、錆びた機械のような動きでロイに振り向く。
「おぬし……」
「だから確認してくださいと言いました……」
シオンは膝から崩れ落ちると絶叫する。
「あああああああああああああああ!アオイいいいいいいいいいいいいいいいい!」