編入試験-5
「この大馬鹿者!」
意識が戻るや否や、アオイはシオンのチョップを脳天に喰らう。
「ご迷惑をおかけしました……」
消え入りそうな声で、アオイはロイとイミナに頭を下げる。二人は気にしていないと朗らかに笑い飛ばしていたが、突然ロイはイミナに席を外させた。
「イミナくん。悪いが私一人で聞きたいことがあるんだ。よろしいかな?」
「構いませんが……後でで良いので、共有してくださいね」
少し不服そうながらも、表立った反論もなく、イミナは医務室から退室した。
「さて」
ロイが振り向くと、今までの穏やかな様相とは打って変わった、威厳のある顔つきで問いかけ始める。
「説明していただきたい。彼が使ったのは、もとい使いかけたのは、“シン魔法”に相違ありませんか?」
シオンはロイを眺めていたが、すぐにため息をついた。
「ああ。おそらく間違いない。そして、私の知る限りでは既に二度発動している」
「おお……」
ロイが感嘆とも悲嘆とも取れる声を漏らす。アオイはただきょとんとしており、ロイはわずかに眉を動かした。
「アオイくん。シン魔法とは何か知っているかね?」
「い、いいえ。師匠からは、強力すぎるから使うなと厳命はされましたが、具体的には何も……」
ロイが視線だけでシオンに非難を送ると、シオンは髪の毛で目を覆い隠す。
「儂とて、心が無いわけではない。重荷に感じることの1つや2つあるのじゃ」
アオイが居心地悪そうに身じろぎしたことに気が付き、ロイは己の浅慮を悟る。同時に、教師としてすべきことも。
(なぜわざわざ私どもに預けるような真似をなさるのか甚だ疑問だったが、そうか。それは確かに重荷だろう。『責任から逃げるな』などと、どの口が言えようか)
「変わられましたな、大魔女殿も」
答えはない。しょんぼりとうつむいたままのアオイの肩に、ロイは優しく手を置いた。
「君の師が教えたことは間違いではありません。シン魔法は、使いどころを間違えれば、街の一つも滅ぼせるでしょう」
アオイは頷く。少し表情が硬いが、話を聞き流されるよりは良いとロイは踏む。
「ですが、シン魔法の恐ろしいところは、その破壊力ではないのですよ」
「え?」
「シン魔法は、魔力ではなく、使用者の“シン領域”を食いつぶして発動する、絶大な力を誇る魔法です。ところが“シン領域”を完全に使い切ってしまうと、魂を引き裂かれ、死に至る。そんな恐ろしい魔法でもあります」
ぽかんとしているアオイに、ロイは一言一言、含ませるように説明していく。
「我々魔法使いにとって、肉体の死は状態の一部に過ぎません。ですが、魂だけはどうにもならないのです」
ロイはアオイの胸を人差し指で指し示す。
「魂を引き裂いたシン魔法の魔力はすぐに肉体へ表出し、術者に絶対なる死をもたらします。術者が用いたシン魔法によって、最期に強制的な『自業自得』を引き起こす。……禁忌に類される術なのです」
アオイは静かに息を呑んだ。