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シンの魔法使い  作者: さんくす
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編入試験-3

「魔術の才は並だとおっしゃっていましたが、なかなかどうして」


 競技場に設けられた観覧席から様子を伺っていたロイは、感嘆の声を漏らした。その脇で鼻を大いに膨らませ、得意気にしている大魔女シオンを努めて無視し、アオイが呼び出した初級精霊を観察する。


「雷の性質を有していながら、あそこまでしっかりと形を保つとは。きちんと研鑽を重ねた証拠ですな」


 その言葉に、わずかにシオンが硬直する。ロイが不思議に思って視線を向けると、どこか悔やむ様な表情を浮かべるシオンがいた。


「どうしたのです?」


「──いや、何でもない。なんでもないとも」


 歯切れの悪い言葉に疑問を抱きつつ、それを口に出すほど、ロイも若くはなかった。再び競技場のエリアに目を戻せば、ゆっくりとだが確実にターゲットを射抜くアオイの姿がある。


「これじゃいくら時間があっても足りない……」


 アオイは歯噛みすると、精霊への指示を止め、懐から石を二つ取り出す。それを両手に持つと、己の左右の直線状に投げる。それらが地面に着くのと同時に、精霊から迸る電流が包み込んだ。


「これをこう!」


 アオイは両手を地面に叩きつけ、術式を発動する。


「《初歩錬金術ファーストアルケミィ金属変換メタルクリストロン》!」


 石が沸騰する水のように震え、地面に浸み込む様に消える。その直後、金属の支柱がその場に立ち上がった。ポールのように先端が丸くなっており、磁場を示すかように帯電していた。


「拡散させるか。狙いや良しだな」


 アオイの作戦を看破したシオンは、アオイと金属のポールを交互に見比べると、隣にいたイミナに目を向ける。


「さて、イミナとか言ったか。試験時間はあとどのくらいだ?」


「え?ええと、あと15分ありませんけれど……」


 シオンは口元に手をやると、再びアオイを眺め、「ふむ」とため息にも似た声を漏らした。


「縮めることは可能か?具体的にはあと3分も行かずに切り上げたいのじゃが」


「それは……」


 イミナの目が泳ぐ。ロイのほうをチラチラと見ては視線で助けを求めているが、ロイはまったりと競技場を眺めていた。イミナは冷や汗を流しつつ、意を決して口を開く。


「り、リタイアとなるかもしれないのですが……」


 シオンがわずかに眉を動かすが、すぐにくすりと笑った。


「別にどう受け取っても構わん。自分の限度も見極められぬ馬鹿者に相応の評価を下すがよい」


 アオイを親指で指し示し、肩を竦めるシオンに、イミナはただ大きくまばたきを返すことしかできなかった。シオンはまるで気にせず、独り言のように続ける。


「あと3分……も行かぬうちに儂が介入する。そこまでの評価を下してやってほしい」


 そうやって言いたいことだけ言い切ってしまうと、シオンはアオイを注視し始める。イミナはそろりそろりとロイに近寄り、耳打ちした。


「あの……いいんですか?」


「まああまりよくはないですが……。何かあるように感じましたから」


「何か?何かって──」


「聞こえておるぞ。おぬしら」


 ロイとイミナは肩を跳ねさせ、慌てて元居た位置の戻ってはしきりに咳払いする。


「“何か”が起こってからでは遅いのじゃ」


 アオイを愛し気に見つめていたシオンは、誰にも聞き取れないほど小さな声で、ひとりごちた。

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