編入試験-2
「それじゃ、この円の真ん中に立ってもらえますか?」
「はい」
イミナに連れられ、校舎とは別棟にある競技場へと、アオイたちは案内された。
アオイはイミナの指示通り、真円を描いた巨大な模様の真ん中に立つ。
「そこで少し待っててねー!」
イミナはそう言い残すと出口に駆け出していった。アオイは所在なさげに佇んでいたが、やがてどこかからイミナの声が聞こえてくる。
「お待たせしました。シミュレータを起動しますから、その場で待機!」
アオイが慌てて背筋を正すと、モーターの回るような音と共に、模様が光り始める。
やがて、模様の光から球体が染み出し、宙へといくつも浮かび上がった。アオイを囲むように、背後や遥か頭上にも飛んでいったようだ。
「それでは、試験を開始します。外縁より内側に存在している光の玉は、魔法で創られたターゲットです。制限時間内で、可能な限り破壊してください。ターゲットの破壊にどんな魔法を用いても構いません」
アオイは弾かれたように首を巡らせる。光の玉が自分の死角にどれだけあったのかを視界に入れるためだ。
イミナは少し呆気にとられ──すぐに微笑む。
「準備は良さそうね。それじゃあ、始めるよ!」
アオイの目の前にカウントが浮かぶ。視界から入る情報と思考スピードにギャップが生まれ、冷や汗がつたった。
(どうしよう、まだ心の準備が!こんなコンディションで魔法を使うのは、万が一暴走したときの制御がままならなくなる……!どうする!?)
やけにゆっくり感じるカウントダウンと、パンクしてしまいそうなほどの情報処理で、だんだんと視界が白くぼやけていく。
完全にパニックに陥ってしまったアオイ。見えない迷宮の中、突如、別の声が耳に届いた。
「落ち着け、馬鹿者」
師匠の声だ。叱咤するような、どこか微笑んでいるような、いつものあの声に、意識と認識のスピードが急速に噛み合っていく。
空気が肺に染み込み、汗のひとしずくを手の甲で拭った。
「はい!」
同時に、スタートの合図が送られる。アオイは迷いなく地面に手をついた。
「《召喚》!チリシィ!」
地面から引き抜くように手を上げると、手をついていたところから、帯電した小さなキリンのような存在が這い出てくる。
この帯電した獣は精霊と呼ばれる存在。魔法によって紡がれた魔力の残滓が、意思を持ったものであり、契約による“意味付け”で個体を確立させる、人の友たる獣である。
「お願い!」
アオイの指差す先にあるターゲットに向かい、針のような雷電を飛ばす精霊。アオイが意図した方向に寸分たがわず飛んでいったそれは、ターゲットに直撃した。
そのまま後ろへ貫通した雷が、無数の細かな針のように形を変えてさらに後方のターゲットをいくつも貫く。
「よし!」
アオイは気を抜かずに次の魔法を準備する。その顔には、いつしか笑顔が浮かんでいた。