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シンの魔法使い  作者: さんくす
1/61

プロローグ

 夜の繁華街で、少年は逃げていた。何か得体のしれないものが、その背中を追いかけていた。


「ハァッ────ハァ────!」


 少年は眼帯でよく見えていない視界を、頭を動かすことで必死に補いながらひた走る。


「やだ、やだよ!助けてよ!」


 誰に対して言うでもなく。


「ごめんなさい!ごめんなさい!いやだ!」


 少年に非があるわけでも、なかった。


「あっ!」


 足がもつれ、()()と倒れこんだ少年に、影が落ちる。少年を追いかけていた男は、喜色に顔を歪めると、持っていた鎚を、少年へ振り下ろした。

 少年は目をつむり、胸に抱いた買い物袋を庇うように身を丸める。


「ギッ!」


 強烈な痛みが少年を襲い、少年は買い物袋を下敷きにして転がる。


「あ……」


 衝撃で脳が揺れたのか、少年は朦朧とした様子で買い物袋を引き寄せ、中身を見る。中で白い殻が砕け、液体が飛び散ってしまっているのを確認し、少年は涙で湿ったため息を漏らした。


「怒られ、ちゃう……」


 そして少年は、前のめりに、頭から()()()()()()()()()()


「……?」


 わずかに残った意識をかき集めて、少年は草の茎の束を握りしめる。痛みと生暖かい感触で混乱する頭を抑え、少年は瞠目した。


「どこ、ここ」


 ふらふらと立ち上がると、少年はたまらなくなって声を上げた。


「おかあさん!おかあさん!」


 首をいくら巡らせても、辺りは暗闇に呑まれ、まともに視界も確保できない。溢れ出した涙と洟水を無理やり拭い、少年は歩き出した。


(ぼくがはぐれなければ良かったんだ。なのに……)


 辺りは深い闇に呑まれ、自分の手がぎりぎり視認できる程度。さらに、目の前の草を分けても、別の株が顔を覗かせる。少年は次第に、己がどうやって進んでいるのか、わからなくなり始めていた。


「……」


 少年の吐息に湿り気が混じる。声だけは出すまいと唇を噛みしめて、少年はただ歩いた。夜の風は冷たく、容赦なく身体から体力を奪っていく。


(もうだめだ)


 少年はついに立ち止まると、力なくその場にしゃがみこんだ。身体を丸め、茎の太い草の一株に身体を預けると、目を閉じる。


「……卵、割っちゃったなあ」


 ぼんやりとつぶやくと、堪えていた涙があふれだした。力ない諦めの言葉に応えるものは何もなく、風は冷たいばかりだった。


「……?」


 ふと、少年が身を起こす。何か音が聞こえたような気がしたのだ。少年はしばらく周りを見回して、それから地面に耳を付ける。今度は確信した。地響きが近づいてくる。


「っ!」


 少年は弾かれた様に立ちあがった。遠くに何か光の球が複数見える。


「おーい!」


 少年は声を張り上げた。聞こえるように、大きな声で。すると、光の球は少し動きを止め、それから確実に近づき始めた。少年もその光に向かって歩いていく。


「誰かいるんですか?」


 ────その声に応えたのは声ではなく、風切り音だった。

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