病棟がお祭り会場に?!
遥彼方さまの「夏祭りと君」企画作品。
「君」の部分が、患者様たち複数のために悩みましたが、彼方さまが快く受け入れてくださったので企画作品としてお仲間に入れていただきました。
季節感のない白い世界の中で生活をしている子供たちに少しでも笑顔になれることを届けたい。
「ねぇねぇ、よつ葉ちゃん。いつも開けてあるあのお部屋の扉がどうして閉まっているの?」
いつもと違うことに敏感な子供たち。
「あっ、ほんとうだぁ! 後で確認しておくね」
あの部屋は普段はカンファレンスで使ったり、新人看護師と指導看護師の勉強会、看護師同士のミーティングや多目的に使われているわりと広めの部屋です。
外泊や病室を出られない子供たちが少しでも楽しんでもらうために小児科病棟で働くスタッフたちが内緒で準備しているプチ夏祭り会場なのです決行日は明日。それまで見つからないように準備を進めてきたスタッフ一同。
いつもは白衣を着ている医師が、法被を着てお祭り感を演出。看護師たちは何かあったときにすぐに対応できるように半数が可愛いエプロンや法被でお祭り感を演出。毎年恒例新人看護師は子供たちに笑顔になってもらうために、子供たちが大好きなテレビで大人気なキャラクターのコスプレをするのがこの病棟の風習だったりする。
新人看護師よつ葉は、女の子に人気なキャラクターに変身することになった。何故か何処から準備してきたのか変身グッズが衣装と共に用意されている。まさに子供たちにサプライズだったのかもしれないけど、私にもある意味「サプライズ?」「ドッキリ?」 かと思わせる出来事だった。
女の子に人気のキャラクターだけというわけにいかない。病棟には男の子だっている。そこで活躍するのが男性看護師。ここもやはり新人男性看護師がその役割を担う。
「なぁ、よつ葉」
「なに?」
「俺らこれ着るの?」
「らしいよ。これじゃあ、大学の時のオープンキャンパスで着させられたミニスカートのピンクの白衣と変わらないよ」
「よつ葉は慣れてるけど俺、初めてだから嫌なんだけど」
こらこら、よつ葉だってできればエプロンや法被で済ませたかったよ!と心の中でつぶやく。
新人男性看護師と共にキャラクターに変身してナースステーション奥の休憩室で待機するように看護師長に指示される。
慣れない格好をして恥ずかしさに押し潰されそうになるけど子供たちの笑顔のために頑張ってキャラクターになりきる。
司会をしている先輩看護師に呼ばれて、キャラクター衣装に着替えた男性看護師とふたりで特設のお祭り会場の扉の前でスタンバイして合図を待つ。その間に小さなバトルが起こる。
「なぁ、どっちから入る?」
「よつ葉、後からでいいから」
「俺から?」
「うん!」
「いやいや、よつ葉の方が慣れてるだろ」
「慣れてないから!」
そんな話し合いの中ついに私たちを呼ぶ声が部屋の中から聞こえた。
「それでは、みんなが大好きな人が来てくれてますよ。は~~い、みんなで呼んでみましょうね」
先輩看護師の張り切っている声が聞こえた。
「○○~~◇◇~~」
キャラクターの名前を呼ぶ子供たち。
「いくか?」
「うん」
扉を開けて元気に入っていく新人看護師ふたり
「あっ、○○だ!」
「◇◇ちゃんもいる!」
「あ~~、よつ葉ちゃんだぁ」
「尚くんだぁ~~」
子供たちにバレている。しかしなりきれと言われている。最後までキャラクターになりきる。先輩看護師さんたちを見ると、笑いをこらえているのが肩が揺れている。
子供たちの体力的なことも考慮して、数十分の予定で開催されている病棟夏祭り。
屋台も花火もない。浴衣姿でもない。点滴に繋がれている子だっている。それでも病棟で少しでも楽しんでもらうために準備してきた。恥ずかしさもあったけど子供たちの笑顔を見ることができた。来年の夏祭りは浴衣や法被を着て元気に地元のお祭りに参加してほしいと願いながら、いつもの白衣に着替える。