私(俺)と10人の彼女 ~ミクとの出会い~
高校生の純は、生まれて初めて彼女ができた。人生初の恋人は同級生で同性のミク。性同一性障害だと気づいてからは、これまでの自分の感情にちゃんと病名がついてあることに安心したものの、生き方についての難問を突き付けられることとなった。数々の恋愛を経験し、もがき苦しみ、自分ではどうにもならない問題を乗り越え、強くなっていく純。優しく心温まる、そして同じ境遇に立つみんなに、勇気を与える一冊。
まだ心臓がどきどきしている。夕暮れ時の電車に揺られながら、潤は右手中指を見つめていた。
これが、エッチというものか。夏休みの自習を終え、彼女の部屋で宿題をしていた流れで、ついにセックスとやらを、やってのけてしまった。
「これをセックスと呼んでいいものか。。。イカせるという事のイメトレは、何度も練習してきた。だが、実際に相手にやってみるとなると、何とも不思議な感情が心を覆いつくす。イメージ通り、マニュアル通り、相手を気持ちよくさせる。ただそれだけではないか。。。」
そんなことを考えながら、もう一度右手を鼻の近くにまで動かす。生まれて初めて嗅ぐ、何とも言えない香り。彼女に中にさっきまで入っていた右指は、今もなお、汗っぽい、湿っぽい、決していい香りとは言えない匂いを残していた。
潤の通う高校は、県下でもトップクラスの進学校だ。中学までは、常にトップクラスの成績で、生徒会長をしていたこともあり、推薦で高校に入学した。兄もまた、県下トップの高校へ推薦で入学。そんな二人のことを親は自慢げに思っていた。受験戦争と無縁のまま高校に入学してしまった潤は、変なプライドを残したまま、高校2年の夏を過ごしていた。
有名な予備校に通わせてもらっているものの、録画ビデオを見る勉強法は、潤には不向きだった。「自分が行きたいって言ったのに、これじゃ成績もあがるはずないよな。。。」と、早送りしては、ミクとのメールばかりする毎日だった。
ミクとの出会いは高校二年の春。放送部だった彼女は、潤とは全く接点のない人物だった。それでも急接近したのは、潤がクラスマッチで目立っていたからだった。どうやら、かっこよく思ってくれたらしい。ミクのほうから、仲良くなりたいと言っているのを、同じ放送部のカナが教えてくれた。カナは潤と仲が良かったのをきっかけに、三人で遊ぶようになり、潤も次第にミクに心を寄せるようになっていった。もちろん、恋愛の種類は同じではない。ミクにとっての潤は、女性たちが宝塚男役にキャアキャア言うあれと同じである。しかし、二人で遊ぶ(潤にとってはデート)ことが増えるにつれ、性別を超えた感情へと発展していった。
初めてキスしたのは、河川敷の公園だ。クラスメイト達と、放課後花火で遊んだ帰り際、自転車置き場でこっそりキスをしたのがファーストキスとなった。生まれて初めての恋人。しかも同性。この時の潤は、この先どんなドラマティックな人生が待っているかなんて、考えてもいなかった。
二駅が過ぎ、到着駅で降りた時も、まだ頭がぼーっとなっていた。つい一時間前、彼女のベットで、恋愛のABCとやらを経験してきたばかりだ。右手の湿っぽい感覚が、まだ指先に残っている。彼女の唾液が自分の唾液と混ざり合う。思い返しただけで、リアルAV動画じゃ、、、自分に突っ込みを入れながら、夕日がより一層ほてった身体を熱くした。
その晩は、ずっと変な感覚が自分を襲っていた。達成感とも言うべきか、でもどこか心配で、不完全燃焼、背徳感、見つからない感情の答えを探す頭もなく、ただぼーっと、湯船に浸かっていた。そうしているうちに、右手の香りもどこかへ行ってしまったが、その時にはもう、次のチャンスを探している自分がいることにも気づいた。ああ、次はいつミクの身体を触ろうか。高校生では大きい方の胸も、最初の彼女
にしてみては、贅沢だと言える。決してスタイルがいい方ではないが、笑顔が可愛く、どんくさい面も、潤には愛おしく思えた。
付き合っていること、同級生の3,4人には話していた。みんな、避難や軽蔑することもなく、応援してくれていた。もちろん堂々と手をつないだり、目立ったデートは出来なかったものの、卒業するまでの1年半、十分に高校ライフをエンジョイできた。大学受験失敗を除いては。