だから私はあなたが嫌い
私はあなたが嫌い。
付き合ってもう一年にもなるけど、一度だって本気で私のことを怒ったことがないよね?
わざと怒らせるようなことをしても、眉毛の端を少し下げて、困った顔で笑うだけ。
「君は本当はいい子なんだから、そんなことをしてはダメだよ?」
そう優しい声で言うだけなの。
一つしか歳が変わらないのに、完全に子ども扱いなのも気に食わない。
私はあなたが嫌い。
雨の日、一緒に傘を差してても、いつも半分以上傘から出ててずぶ濡れになってる。私は全く濡れていないのに。そこまでしなくていいのに。
そのせいでこの前、風邪をひいて熱出して寝込んだじゃない。それを絶対に私のせいにしないのも気に食わないのよ。
「ごめんね、風邪くらいで。情けないよね」
すごく辛そうなのに、なんで微笑んで謝るのかな?
私はあなたが嫌い。
すごく背が高くて足も長いからとても速く歩けるはずなのに、チビでトロイ私に合わせてゆっくり歩くの。だから電車に乗り遅れたこともあるよね。
「一人で先に行くなんて考えたことも無いよ?」
少しくらいは考えようよ? 急いでる時ぐらいさぁ。
私はあなたが嫌い。
一緒に食事に行っても、何がいい? って私に訊くだけで自分は何が食べたいって絶対に言わないの。
「君が好きなものが僕の好きなものだよ」
……そんなわけ無いじゃない。知ってるんだよ、本当は結構激辛が好きなくせに、いつも私に合わせて甘いものばかり食べてるって。
私はあなたが嫌い。
大事な仕事で出張が入った時。その日は私の誕生日だった。
仕事の方が大事だろうと黙っていたのに、思い出したあなたは翌日の仕事も放りだして帰って来たよね。おかげですごく上司にも取引先にも叱られて、危うくクビになるところだったじゃない。
「仕事より、君の誕生日を一緒に祝う事の方が僕には大事だから」
きっぱり言ったあなたの言葉に、私は呆れてものが言えなかったわよ。
優しすぎるのも気に食わないの。
でも、他の男の人に私が声を掛けられて肩に手を回された時、本気で殺しそうな目でその人を見て、触るなって一喝したあの低い声、本気で怖かったよ。
「君に触れていいのは僕だけだから」
そういって私に微笑んだ顔はいつもの優しい顔で。
その手の感触も、少し癖のある髪の手触りも、匂いも、声も、笑った時に右の頬にだけ微かに浮かぶ笑窪も……もう何もかもが好きすぎて、その一挙一動が常に私の心を搔き乱して、姿が見えないと、声が聞こえないと不安になるのよ。
私をこんな気持ちにするあなた。
だから私はあなたが嫌い。