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15代目魔王と”ばいと”なるもの

「くそっ。どうしたらいいんだ?」

魔王は悩んでいた。ついこの前、世界征服という偉業を成し遂げた父、先代魔王が死に、一人息子の自分に魔王の座が回ってきた。最初こそ彼は喜んだが、実際の魔王の仕事は安易なものではなかった。広大な土地を守ったり、莫大な資金を使ったり。すべて魔王の一存にかかってくるのだ。しかし、魔王の一番の悩みはそれではなかった。

「もう。何でみんなちゃんと働いてくれないんだろう。働いた分だけ給料上げるよ!って

言ってるのに……」

そう、彼の悩みは家来たちがまじめに働いてくれないことだった。どうやら先代魔王と少しやり方が違うらしい。極力先代の魔王の通りにやっているはずなのだが……。

「何かお困りですか。魔王殿下。」

ふと誰かに声をかけられて魔王は顔を上げた。

「おお、グランセルじゃないか。やっぱり俺のことを気にかけてくれるのはお前だけだ。」

グランセルというのは魔王の執事で、初代魔王の頃からずっと魔王一族に仕えている。彼自身が15代目なので、彼の年齢は3000歳はゆうに越しているだろう。

「お褒めに与り光栄です、魔王殿下。しかし、まだ殿下の答えを聞いておりませぬ。何にお困りなのですか。」

「いや、最近(っつーか俺が即位してから)家来たちの働きが悪くてな。グランセル、どうしたらいいと思うか?」

「たしかに殿下が即位されてから皆働きが悪くなりましたねぇ。」

「そうなんだよ。っていうかお前どうして俺の心の声が読めた?!」

「長いお付き合いですから。心の声くらい読めるようになりますよ。にしても大変ですねぇ。」

グランセルは少しの間考えていたが、ふと思い出したようにこう言った。

「そういえば、この間異世界に遊びに行ってきたときにバイトなるものがあると聞きました。バイトというのは特殊なものでしてねぇ。」

「ちょっっっっっと待て!」

そのまま話し続けようとするグランセルを魔王が制した。

「お前、勝手に異世界に行ったのか?!」

「ええ、それはそれは楽しいところでしたよ。そもそも……ハッ!」

「異世界に勝手に行くには俺の許可が必要なはずだが?」

「申し訳ありませぬ!ワタクシかねてより異世界に行ってみたかったものですから‼殿下にお知らせしようとも思いましたが大量の仕事を言いつけられて異世界には行かせてもらえないのがオチですから。全く今の魔王殿下と言ったら自分一人では何にも出来ないくせに他人には仕事を押し付けるんだもん、もう嫌になっちゃいますよ。」

「お前、謝っているようでさりげなく俺の事けなしてるよな!」

話始めると周りのことが見えなくなってしまうのがグランセルの良くない癖だ。

「殿下、なぜワタクシの心の声が読めました?!」

「心の声っつーかもう口から出ちゃってるよ!全く……。まあそれはもうよい。それよりもその「ばいと」なるものの方が気になる。説明してくれ。」

すると暗かったグランセルの顔がパッと明るくなった。

「許してくださるのですね、殿下!有り難うございます‼では早速……」

そういうと、グランセルはどこからか巻物を持ってきた。

「これがバイトの図です。えー、バイトとは先ほども申し上げた通り、特殊な仕組みでございます。普通この世界では働き人は一生契約です。が、なんとこのバイトというものは時間契約なのであります!」

「はあ。それで?」

魔王はあくびをしながらいった。するとグランセルが、

「それで?とは何ですかそれで?とは!時間契約とはものすごいことですよ?!どんなにいい働きをしている人でも時間になればさよならですよ?!これがものすごいことでなくて何になりますか?!」

とまくしたてるように喋りはじめたのでさすがの魔王もおれて(というか面倒くさくなって)

「そだな、たしかにすごいことだな」

と感情をこめずに返した。が、こういう時のグランセルは先ほども言った通り周りが見えなくなっている。普段なら

「殿下。それ本当に思っていますか?」

といった風に鋭く返事をするが、今は

「ですよね、殿下ならわかってくださると思っていました!」

といったアホな返事しかしなくなっていた。

そういうようなやりとりがつづき、1時間も経っただろうか。

「そういうものなんです。」

「ふーん。」

まあ兎に角魔王も「ばいと」の意味は分かったし、その仕組みを使えばまじめに働く人材を確保できそうだったので

「んじゃいっちょ異世界に行ってきますか。」

といって異世界に旅立つ支度を始めた。



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