87 いい子たち!
「じゃぁ、これをすりつぶしてもらえる?」
「葉っぱをすりつぶすんですか?なんだか薬草の調合するみたいですね?」
薬草の調合?
ふーん。そうなんだ。すりつぶすなんて結構日本じゃ普通だったんだけどな。
すり鉢とすりこ木で、ゴマだとか山芋だとか。
「でも、すりつぶすための道具がないですね」
おっと、そうか。すりこ木ないんだ。じゃぁ、やっぱりみじん切りか。
あ、そうだ。
「ブライス君、じゃぁ、これ、凍らせてぱりぱりになってる状態で粉々にしてもらえる?」
「了解しました」
さて、その次はタコ。
食べやすい大きさに切って。
それから。
「え?それって、猪を調理したときに出たやつですよね?」
「そう。えっと、ラードのような感じで、使えそうだと思ったから取っておいたんだ」
角煮を大量に作ったら、翌日、上のほうが白い塊いっぱい浮かんでました。
猪は豚よりもずいぶん脂身が少ないと思っていたけれど、それでも大量に調理するとそこそこの量はできた。……もっとたくさんあれば揚げ物できたのになぁ。タコのから揚げ……。
まぁとにかく、オリーブオイルはないけど、何かしら油欲しかったからね。ラード……。
ちょっと風味は違っちゃうけど大丈夫だよね?
ラードを使ったパスタもあるし、タコの唐揚げをラードで揚げることもあるんだから。
イタリアンにもタコにも、ラードとの相性が悪いはずはない。……と、思う。
と、言うわけで、できました。完成でーす。
「カーツ君、ローファスさん呼んできてもらえるかな?」
お皿に盛りつけている間に、カーツ君が小屋の外に出て「ごはんだよー」と声を張り上げている。
「待ってました!」
泥だらけのローファスさんが、呼びに行ったカーツ君よりも早く小屋に入ってきた。
うげっ。泥だけじゃなくて砂もいっぱい。
「食べ物に砂が入ったらどうするんですか!外で落としてから入ってください!手をしっかり洗ってくださいね!」
「お?おお、すまん、すまん」
小屋を出ていったのと入れ替わりに、サーガさんが入ってきた。
サーガさんも泥だらけの砂だらけだ。
「サーガさん、砂を落として手を洗ってからご飯なの」
「え?」
キリカちゃんの言葉にサーガさんが手足を見る。
「あ、本当だすいません。屋敷にいるときにはこんなことはないのですが……討伐で派遣されているときは食事らしい食事を取る習慣がなくてうっかり……」
サーガさんが申し訳なさそうに外に出ていった。
ああそうか。
モンスターを討伐しているのに、服の泥や砂を気にしてゆっくり食事できるわけないよね。
……まだ、外にはモンスターの姿も残っているかもしれないのに。
私のほうこそ、もしかして場違いなこと言っちゃったかも……。
泥だらけ砂だらけになったのも、もしかしたら私が料理している間にモンスターと戦っていたのかもしれないのに……。
ローファスさんとサーガさんが戻ってきて、全員が席に着いたところで頭を下げた。
「あの、私たちのためにモンスター討伐ありがとうございます!えっと、私にできることは何もないですけれど、せめてお腹いっぱい食べてください」
サーガさんが驚いた顔をする。
ん?何か変なこと言った?
「ユーリはいい子だろ?」
ローファスさんが私の頭を乱暴になでた。
どや顔をサーガさんに見せてるけど、なんで私をどやって自慢してるんですか!
「有事に働くのが我ら騎士や兵の仕事。当たり前のことをしているだけで……感謝されるだけではなく、私たちのために何かお礼をしたいというのは初めて聞いたよ」
カーツ君が声を上げた。
「そうだ!ユーリ姉ちゃんは言ってたんだ。してもらって当たり前だからお礼を言わないより、してもらったことがうれしいからお礼を言うんだって。当たり前のことだって感謝の気持ちを伝えると伝えたほうも伝えられたほうもうれしくなるって。だから、えっと、サーガさん、ローファスさん、それからブライス兄ちゃん、モンスターを退治してくれてありがとう」
うるり。
やばい、目頭が熱くなる。
そう、確かにカーツ君に言ったね。
それを覚えていて実行してくれる。カーツ君はいい子だ。
いつもありがとうございます。
してもらって当たり前だと思うと傲慢になります。
例え相手は仕事だったとしても感謝の気持ちは必要です。
消防士さんが火事を消してくれた。仕事だろ?じゃなくてありがとう。
命がけですからね。
同じように、飲食店で食事をした。食事を提供してくれてありがとう。
*おいしいものを安く提供しようと頑張ってくれてるとかそういうこと、PSゴールドっていうテレビ番組のすごすぎるモーニングのおばちゃん見てると感じずにはいられないわけで。
無理しすぎないで!休んでいいのよ!もっと値上げしていいのよ!
おかしなことじゃないのに、「レジでお礼を言うの気持ち悪い」という人がいることに驚きました。
注*お礼を言えと言っているわけではない。
言っている人を非難するのはなんで?っていう意味です。




