85 親切の空回り
「ユーリ、それ、朝食の材料か?」
「ろ、ろ、ろーふぁs……ローファスさん、びっくりするじゃないですかっ」
目の前にはさわやかとはいいがたい、なんか暑苦しい風体のローファスさんが立っていた。
まさか、この台地まで飛び上がったとか?
いやいやいや、かなりの高さがあるんだけど……。
「ど、どうしたんですか?こんなところに来て?特訓は終わったんですか?」
「ああ、いや、二人とも魔力切れになったからな。続きは朝ごはんを食べてからと思って」
はー、そうですか。
ん?それって……。
「もしかして、MPポーションを使った料理を食べたいっていうことですか?」
ローファスさんがキランッと白い歯を光らせて笑う。
あー、はい。そうですか。
えーっと、使うつもりはなかったのですけど……。あ、そうだ。
まだMPポーション使ったグミジャムが残ってました。
じゃぁ、今日はグミジャムとパンとタコ使ったのと、えーっと……。
日本ならウインナーとか卵とかで何とかなるんだけどなぁ。タンパク質、タコだけじゃ足りないかな?
っていうか、まさか、朝食が早く食べたくて私を探してここに来たとか?
「必要な物はそろったか?」
ローファスさんに言葉にうなずいて返す。
「よし、じゃぁ、降りよう」
は?
え?
ちょ、ちょっと!
ローファスさんがさっと私をお姫様抱っこする。
ぎゃーっ!
そして、あろうことかそのままタタタターンと、畑の端まで走っていく。
だ、だめだって、そっち崖!落ちる!
「うわぁーーーーっ」
「しっかり食糧抱えてろよ!」
何言ってんの、この人!
普通はこういう時は「しっかりつかまってろ」とか言わない?
なんで、こんな崖を落下するのに食糧の心配してんのよぉぉぉぉーーーっ。
ドシュッ。
着地。
ローファスさん、顔色一つ変えずに着地しました。
えー、ちょっと、5階建てのビルくらいの高さあるんですけどっ!そこから、私を抱えて飛び降りたんですけど!
ローファスさんが私をたせようとおろす。
「あっ」
「ん?」
飛び降りた恐怖で足が震えていて立てない。
「どうした?ユーリ大丈夫か?」
「だっ、大丈夫じゃありませんっ!あんな高いところから飛び降りたらだれでも怖くて……」
がくがく震える足ではうまく立てないので、仕方なくローファスさんの腰あたりに捕まる。
生まれたての小鹿か!とか突っ込みもされるわけもないのでいい大人が恥ずかしい。
「ローファスさん、何をしているんですかっ!あんな高さから落ちるなんて経験、普通の人はしないんですよっ!」
ブライス君が慌てて駆け寄り、ローファスさんに抗議をしてくれた。
あ、よかった。私の普通感覚とこちらの普通感覚はずれてなかった。
「あー、いや、キリカとか楽しそうだったから、ユーリも喜ぶかと思って……」
「ローファスさん、キリカはまた特別でしょう!」
そっか。キリカちゃんは楽しいんだ。
うん、フリーフォールみたいなものだと思えば確かに楽しいかも。
えーっと。
「ローファスさん、あの、私を楽しませようとしてくれたというのは分かりました。ありがとうございます」
……実は、一秒でも早く朝食を食べたくて飛び降りたんじゃないかって疑っていたのです。
だけど、違ったんですね。違いますよね?
「でも、その、故郷でも、高いところが得意な人間もいれば苦手な人間もいて、絶叫マシンが得意な人もいれば苦手な人もいて……」
「絶叫マシン?なんだそりゃ?」
ジェットコースターとかフリーフォールとか、空飛ぶ絨毯みたいなのとかえーっとスピード感のある乗り物?なんていえばいいんだろう。
「高いところから落ちたりぐるぐる回ったりする遊び道具?と、とにかく、キリカちゃんはそういうの得意かもしれませんが、私はそういう遊びは苦手なので、えっと……緊急事態でもないかぎり、もう二度としないでくださいっ!」
ローファスさんが頭をかいた。
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