82 普通の女性
「ユーリちゃんは女の子だし、愛する者の忘れ形見だと言えばすぐに許可が下りますよ」
え?愛する者の忘れ形見で許可が下りるの?でも、だったら、男の子でも許可降りるでしょう?
「それって、成長して愛する者に似てきたら養子から妻へとクラスチェンジするっていうやつですか?そうじゃなくとも、女の子なら嫁に出すことで政治的に利用価値がありますし」
ぶはっ。
口に入れたわさび醤油つけた大根を思わず吐き出す。
ゲホン、ゲホン、ゲホン。
痛い、痛い、わさび変なところに入ったぁ。痛い。
「大丈夫ですか、ユーリさんっ!」
「ほら、落ち着け」
ローファスさんの大きな手が、私の背中をさする。
大きくて、温かくて、それから硬い、男の人の手だ。
って、意識したらダメだ。別のこと、考えないと……。
嫁にするために養子にするって、成長するのを待つって、それ……。
「光源氏計画……」
いやもう、どこの世界も貴族ってやつはぁ……。っていうか、物語の中の話じゃなくて、リアルでそういうことがあるんだね。
うわー、やだ。父親だと思ってた人間が夫になるとか最悪じゃない?
「何だ?何計画だって?」
「何でもありません。とにかく、私、ローファスさんとは家族になりませんっ!ぜーったい、ぜーったい、養子にも嫁にもなったりしせん」
ローファスさんがとっても悲しそうな目をする。
やめて!その捨てられた犬みたいな目をするのは!ずるい!
つい、言い過ぎたかなって思っちゃうじゃない。
「ローファスさんが結婚して、奥さんが子供産んで、子供のお世話や家事のお手伝いさんが欲しいっていうなら、雇ってください」
サーガさんがローファスさんの肩に手を置いた。
「だ、そうですよ。結婚したらお手伝いさんとしてそばに来てくれるらしい」
「うっ、結婚……か……」
ローファスさんが口をつぐんだ。
そんなに結婚したくないのかなぁ?ローファスさんは子供好きそうだし、自分の子供だったら、目に入れても痛くないくらい可愛いよ、きっと。
「兄さんはどんな女性が好みなんですか?何なら私が紹介しますよ」
サーガさんの問いに、ローファスさんが頭を押さえる。
「好みかぁ……考えたことねぇな。適当にその時その時付き合ったり別れたりはしてきたけど、それぞればらばらだったなぁ。キツイ女もいれば、優しい女もいた。背の高い女もいれば恰幅のいい女も」
うわー、女に困ってない系かぁ。ローファスさん……。モテるんですね。
「それ、相手から付き合ってと言われてほいほい付き合ったら、貢がされたって事案ですよね、ほとんど」
え?そうなの?
「いや、えっと、まぁ、うん。いいんだよ。お金に困ってるっていうんだから、助けたいだろう」
いい人だと思ってたけど、いい人過ぎるんじゃなかろうか?
「つまり、兄さんは結局自分から誰かを好きになったことないんですよね。だったら、どんな女性でも構わないんじゃないんですか?兄さんのこと理解して一緒に歩んでくれるなら。条件に合う女性をピックアップしましょうか?」
条件に合う女性をピックアップとか……。
お見合い斡旋業者みたいなこと言ってる。あれ?でも貴族の結婚なんてそんなもの?
「い、いや、好み、好みは……」
ローファスさんの目がこちらを向いた。
「お、俺の身を案じてくれる人がいい。それから、料理が上手で、子供を笑顔にしてくれる、そんな女がいい!」
へー。ローファスさんの好みって、意外と普通だ。
どこにでもいそうですよね。
金髪で目が大きくて、ウエストがくびれていて胸が大きくて、冒険者として一緒にあちこち移動して……とか、あれこれ条件言わないんなら、すぐに見つかりそうですよ?
それでも見つからないっていうのは、ちょっと悪い女性ホイホイなんですかね?
ぷはっと、サーガさんが噴出した。
「そうですか、そりゃぁ厄介だ。あと5年は無理そうですね」
え?
そうなの?この世界って、そんな普通の女性が少ないの?
どこがむつかしいの?まさか、料理?小屋が特別貧しい食事なんじゃなくて、街に行っても、料理らしい料理を作れる人って少ないの?ってことはないよね、さすがに……。
ブライス君がローファスさんを怖い顔でにらんでいる。
「ごちそう様なの!おいしかった。キリカね、クラーケン好きになったよ」
「俺も。今度いつ食べられるか分からないのが残念だ」
いつの間にかキリカちゃんとカーツ君の皿が空になっていた。
「私たち、先に片づけますね。鍋に残っている料理は食べて構いません。ごゆっくどうぞ」
私も残っていた大根を口に入れて席を立つ。
3人で仲良くお皿を洗ってお片付け。
それから、部屋に行く前に振り返る。
ブライス君とサーガさんが二人で熱心に何やら話し合っていた。
ローファスさんは、鍋を持ってテーブルに運んでいます。鍋の中の料理、朝は空っぽになってそうだなぁ……。
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