81 家族になろう
「ユーリお姉ちゃん、出汁ってなぁに?」
え?!
「クラーケンから何が出たんだって?」
出汁、そういえば……、出汁の概念ってない?
ないの?
「いや、えっと、クラーケンからいい味が、にじみ出て大根に染みたっていうか……?」
「へー。にじみ出るいいお味が出汁っていうの」
キリカちゃんの言葉に頷いておく。
間違ってはないと、思う。
「クラーケンありきの味……というわけですか。ということは、めったに味わえないっていうわけですね」
「まぁそうがっかりしなくても、ユーリの作る料理はクラーケンなんてなくたってどれもおいしいぞ」
しかし……そうか。
出汁文化がないのか……。
鰹節も昆布も期待できなさそうですね。
はぁー。煮干しも無理かな?ううう。
「兄さん、ユーリちゃんにぞっこんですね」
サーガさんが大根を咀嚼しながら笑った。
ぞっこん?
どこをどう見たらそう見えるんだろう?
「まさか、家族にするとか言いませんよね?」
え?家族になるって、結婚?
「サーガ、それだ!それ!お前、たまにはいいこと言うな!」
ローファスさんが立ちああった。
「ユーリ、なぁ、家族になろう!」
何を言っているんだろう?
「周りから、早く結婚しろ、結婚しろってうるさく言われてるけれど、これで問題は解決するぞ!」
はぁ?
「いえ、結構です。私、ローファスさんと結婚しませんっ!」
冗談じゃないです。いろいろと。
ローファスさんの目が点になった。
「あ、うん、そうだな、結婚か。ユーリと結婚するっていう方法もあったか……」
へ?
「ふふっ。兄さん振られましたね。そうですよね、ユーリちゃんからしたらこんなおっさんと結婚なんかしたくないですよね」
おっさん……ええ、私、そのおっさんとほぼ同じ年なので、おばさんです。
地味に傷ついた。
「安心してくださいユーリちゃん。兄さんが言っている家族というのは、養子のことですよ。私たち貴族の間では養子をとることは珍しくないですから」
あ、そういえば、ローファスさんとサーガさんの兄弟にも養子はいるとか言っていたな。
「よ、養子……」
ははは。それもどうなの。
ほぼ同じ年で、ローファスさんの子供になるってこと?ありえない。
「どうだ、ユーリ。俺と家族になろう?俺が、ユーリの父ちゃんだ」
……な、い。
結婚よりもないわ……。
「じゃあ、僕がユーリさんと結婚したら、僕もローファスさんの息子になりますね」
ブライス君がうんざりした顔を見せる。
「お!そうか!そりゃいい!最強親子冒険者、なんかかっこいいなあ!」
ローファスさんは嬉しそうだけど、いや、あのね……。私もブライス君もめっちゃ嫌そうな顔してるんですけど、見えてますかね?
「お断りします」
ショックに涙目になっているローファスさんは無視して、皿が空になった子供たちにお代わりはいらないかと尋ねる。
「ふふ、残念でしたね兄さん。養子を迎えて結婚しろという声を回避するのは無理そうですよ」
サーガさんの言葉にブライス君が冷たい声を出した。
「ユーリさんじゃなくて、誰か養子にすればいいじゃないですか。ローファスさんなら10人でも20人でも養子を養えるでしょう?」
ローファスさんはふてくされた表情で酒をちびちびとやっている。
「それが、まぁ、適当な人間を養子にしたいと言っても許しが出ないんですよね……。公爵家に関わる人間になるわけですから。何かにとびぬけた才能があるとか、よほどの恩義があるとかでないと」
なるほど、そうだよね。
それこそ、何人でも養えるからってローファスさんみたいな子供好きが、100人も200人も養子にしちゃったら問題あるよね。
国を立って背負えるような何か技能とか才能がないと許されないわけだ。
あれ?でも、じゃぁ……。
「私を養子にしたいって言っても、許しが出るわけないですよね?レベル2で弱小な上に、この国のこともほとんど知らない無知だし」
サーガさんが申し訳なさそうな顔を見せる。




