健康状態が心配でしょう!
……ブライス君がキリカちゃんに「どうする」と尋ねたのは、契約するかしないかどうするかっていう意味も含めて聞いたのかな。
キリカちゃんは1食我慢することを選んだってことだ。
うーん、でもなぁ。
まだ幼児と言えなくもない幼子が食べるの我慢してるのに、目の前で自分だけ食べるなんて……。
おばちゃん、修行が足りなくて、まだ無理だよっ!いくら訓練って言われたって、言われたって……。
部屋に戻って、ポーションの瓶を4つ持ってきてパンと交換する。
それを、皆に1個ずつ配る。
「あのね、私の故郷では引っ越しそばっていう習慣があって、住人にこれからよろしくお願いしますって、挨拶でそばを配るのっ!そばはないからパンになっちゃったけど、これからよろしくお願いします!よろしくしてくれるなら受け取ってください。もし、私がここにいることが嫌だったら受け取らなくていいですっ!」
ペコリと頭を下げる。
明日から、明日からはもうちょっと頑張ってダンジョンルールに従えるように努力するけど、でも今日は無理。
なので、ごめんね。日本ルールというか、日本の習慣異世界改変バージョン使わせてもらいますっ!
「ねぇ、そばってなあに?」
「よくわかんねぇけど、故郷の習慣なら受け取らないわけにはいかないな」
「こちらこそよろしくおねがいします」
3人とも、パンを受け取ってくれた。
ほっ。
よかった。でも、毎日こういうわけにはいかないよね。
みんなが最低でもお腹いっぱい食べられるだけのポーションを収穫する手立てはないものか。
黒い悪魔……。
日本なら、叩き潰す以外に、スプレー噴射っていう方法もあった。スプレーはないから無理だよね。
巣に毒をもちかえって巣ごと退治みたいなのもあったな。そもそも巣があるのかわからないけれど、持ち帰った場所でポーションが出てきても取れないからこの手もだめだ。
うーん。
あ!
そうだ!ダメでもともとだ。ちょっと聞いてみよう。
ブライス君の言った通り、なかなか柔らかくていいベッドだったので、あっという間に夢の中だった。
朝。
「はっ!目覚ましが鳴らなかったけれど、何時?」
飛び起きて、異世界だということを思い出す。
えーっと、異世界だとしても、朝することは同じだ。朝食の準備。
昨日は自動販売機から出てきたパンを食べただけだ。
キッチンへ行くと、ブライス君の姿があった。
よく見なかったが、キッチンの設備、かまどだ。昔話に出てきそうなかまど。鍋や食器類などは数は少ないけど一応はある。
だけど、食材と調味料の姿がない。
「ブライス君、冷蔵庫……いえ、食糧庫みたいな、料理に使える材料が置いてあるところはある?」
「料理は誰もしないから」
え?
「パンとじゃがいも以外は出てこない」
と、ブライス君が自動販売機(正式な名前は知らないのでそう呼ぶことにした)を指さした。
「まさか、毎日、パンとじゃがいもしか食べてないの?肉は?魚は?野菜は?だ、ダメだよ!ちゃんとバランスの良い食事をとらないと!」
目の前が真っ暗になった。
育ち盛りの子供たちが毎日毎日パンとじゃがいもとは!しかも時々我慢するとか!
そりゃ、お腹は膨れるかもしれないけど、現代日本人の私には信じられない。
昨日はよく見てなかったけれど、ブライス君に近づいて顔をよく見る。
随分整った顔をしている。
真っ白な綺麗な肌。顔色は悪くない。透き通るようなきれいな金の髪はパサついてない。
手を取り爪の色を見る。きれいなさくら色だ。黄色くもないし妙に黒ずんでいることもない。
「ちょ、ユーリさん、な、何ですか?」
シャツをひっつかんでベロリとめくりあげる。
あばらは浮いてない。腹が妙に盛り上がって膨れていることもないし、湿疹も出たりしていない。
「わー、姉ちゃん、何してるんだよっ!ダンジョンルール、パーティー内恋愛禁止だぞっ!」
ブライス君のシャツをベロリとめくっている私を、カーツ君が慌てて止めに来た。
「え、これが恋愛なの?」
キリカちゃんがシャツをめくって自分のお腹を出す。キリカちゃんの健康状態も良さそうだ。
「は?恋愛?何を言っているの?」
意味が分からなくて首をかしげる。
「ローファスさんが言っていたぞ。男女が服を脱いだり脱がしたりダンジョン内では厳禁だって!」
カーツ君の言葉に、カーッと顔が熱くなる。
いや、それ、恋愛と微妙に違う側面もあるとは思うんだけど。そうか。うん、ローファスさんが言いたかったことは分かった。
確かに、その条件で言えば、私は今ブライス君のシャツをめくっているわけだし……。
「ご、ごめん。その、子ども扱いしすぎました」
主人の浮気相手の子供たち。1歳から6歳まで育ててきた。いや、面倒を見てきた。その子たちと同じに扱っちゃった。
ブライス君のシャツから手を放して、キリカちゃんの服も整えてあげる。