77 指笛
小屋から顔を出す。目に真っ先に入ってくるのは巨大な冷凍クラーケン。
そういえば、クラーケンとコラーゲンって名前が似てるよね……。これがコラーゲンの塊だったら、毎日毎日いっぱい食べるんだけどな……。
きょろきょろとサーガさんとローファスさんの姿を探す。
「あ、いたいた、サーガさん、ご飯ができました!」
太いクラーケンの足の向こう側にサーガさんの姿を発見する。
「ん?あ、ああ。すまんが、冒険者サイドとの打ち合わせを食事をしながらする約束があるんだ。あとは副官の君に任せる。何かあれば小屋に呼びに来てくれ」
と、隣にいた背の高い男の人にサーガさんが声をかけた。
食事をしながら冒険者サイドと打ち合わせ?
「はい。任せてください!S級冒険者のローファス様と今後の打ち合わせですね!」
目をキラキラ輝かせて副官が答えてる。
あれ?
ただのタコ試食会だよね?
むしろ、久しぶりに会った兄弟が仲良くご飯を食べつつ酒を飲む会?
首をかしげる。
サーガさんが指笛をぴぃーーーーっと鳴らした。
うわーすごい大きな高い音。
しばらくして、どこからともなくローファスさんが現れた。
……えっと、地球だと、指笛で呼ばれて来るの、馬とか犬とかなんだけど……っていう言葉はごくんと飲み込む。
「ユーリ、待ちかねたぞ!」
「ローファスさん、まったく、突然出たり消えたり、冒険者が何か不測の事態でも起きたのかとびっくりするからちゃんと説明してあげてくださいよっ!」
ブライス君が遅れて姿を現した。
「説明?ご飯の時間だから帰るって言えばいいのか?」
……ああ、ブライス君が頭を押さえました。
「今から、軍の代表者と冒険者の代表者が話し合いを行う……食事をとりながらっていうことらしいですよ?」
ブライス君に声をかけると。
「はー、うまいこと言いますね」
ブライス君がちらりとサーガさんを見て、小さな紙に光る文字を書いてから丸めてぴゅーっと飛ばした。
空高く上がった紙から光の文字が飛び出す。
うわー、魔法!魔法!
「君、その魔法いいね。軍に入らない?」
サーガさんがブライス君の肩を叩いた。
「サーガ、ブライスは俺のだ」
「兄さん、結婚しないと思ったら、女の子ではなく、まさか男の子に懸想を……」
サーガさんの言葉に、
「冗談じゃないっ!」
ブライス君が心底嫌そうな顔をした。
「ねー、早く早く、食べようよっ!」
待ちかねたキリカちゃんとカーツ君が小屋から顔を出す。
「そうだった。冷めちゃうね。冷めちゃうのは大根だけだけど」
あわてて小屋に引っ込む。
「ブライス、念のため盗聴防止の魔法頼む」
小屋のドアを閉め内側から鍵をかけた後、ローファスさんがブライス君に声をかけた。
周りには軍の人も冒険者も普段はいない人たちがいろいろいる。
「もちろん。うっかりローファスさんが口を滑らせるといけないですし。でも、この方には知られてもいいんですか?」
「ああ、自己紹介がまだでしたね。王直属第2魔獣討伐軍司令官のサーガです。兄がいつも迷惑をかけています」
サーガさんがちらりとローファスさんを見る。
「兄?ああ、ローファスさんの噂は本当だったんですね」
噂?
「ローファスさんの小屋出身のブライスです。先日レベル10に上がったばかりの駆け出しの冒険者です」
「いひひ、サーガ、駆け出しっつってもブライスの魔法はすごいんだぜ。もうB級に上がる予定だ」
ローファスさんが自慢げにブライス君の話をサーガさんに語る。
「早く食べようぜ!」
「そうだった!話はあとだ!ブライス、そいつは大丈夫だ。秘密を守る契約がしてあるからな。サーガも、ブライスは俺としばらく行動するから手を出すな。じゃぁ、食おうぜ、ステータスオープン」
ローファスさんが尻尾をフリフリ椅子に座った。
うん。尻尾ありませんけどね。大型犬がちぎれそうなくらい激しく尻尾を振っている幻影が見えたのです。
ご覧いただきありがとうございます。
えーっと、カクヨムにスピンオフ華菜の話1話目投稿しました。詳細は活動報告にて。




