76 クラーケンの味
大人用に、お酒に合う、たこわさび。
葉わさび刻む。
おろしわさびと葉わさびと、少しの醤油と酒とみりん。そこに生タコを小さく切ったものを入れて合える。
なじむまで置いておけば出来上がりだ。
簡単。
味見しよう。
ぱくん。
ふわぁ、つーん。
おいしぃ!
新鮮わさびの風味がすごい。辛みも、わさび独特のこの鼻にくる辛みも、最高です。タコのつるんとした舌ざわり。
うん、クラーケン、大味でもなくて、ちゃんとタコしてます。
たこって、意外と高くてたくさん食べたくても食べられないけど、クラーケンなら食べ放題できますね……。
と、作ったたこわさに視線を落とす。
たくさん食べる物ではないという意識で、つい、小鉢1杯分で、私とローファスさんとサーガさんとブライス君の分を作ってみたけど……。ローファスさん、もっと食べる気がしてきた。
足りないからって、サーガさんやブライス君の皿から食べちゃうような気さえしてきた。
もっと作っておきましょう。
追加でたこわさ大量に作る。
まぁ、わさびの抗菌効果で冷蔵庫ないけど明日も大丈夫だよね?いや、生だから危険かな。余ったらブライス君に凍らせてもらおうかな。
さて、大根煮て、炊けたご飯で作りますよ!
お寿司!
タコのお寿司しか作れないけれど……ほかに何か寿司になりそうなものあったかな?ネギ?
……そういえば、芽ねぎの寿司とかあったよね。
「洗ってきたよー」
キリカちゃんの手元のネギを見る。
んー、しっかりした葉ねぎですね。うん、でも白いところもちゃんとある。
「白髪ねぎにしたら、平気かな?」
ネギトロとかネギを使った寿司は他にもあるんだから、ネギは寿司に合わないわけはない。
というわけで……。
寿司は、タコ、白髪ねぎ、山鳥の燻製肉というラインナップになりました。
もらった飴玉を溶かして砂糖替わりに、酢と混ぜ合わせ、炊き立てご飯にフリフリ。
キリカちゃんにあおいでもらい、切るように混ぜる。
……しゃもじもないから、木の板ですよ。しゃもじほしいな。
こういう形の作ってくださいって誰かに頼んだら作ってくれないかな?
箸、菜箸、しゃもじ、それからおひつもあるといいな。そうそう、お弁当箱もほしい。
……ローファスさんくらい大食いなら、おひつがそのまま弁当箱になりそう。ふふふっ。
って、笑ってる場合ではないのだ。
「じゃぁ、カーツ君、キリカちゃん、一緒にお寿司作ろうね」
「お寿司?」
「そうだよ。また握るの。今度は、ご飯はこういう形でね」
シャリを握る。にぎにぎ。
硬く握りすぎずにかといって、崩れないように。
「大人用はこの緑のわさびをつけます。キリカちゃんとカーツ君のはつけません。ブライス君はどうかな?わさび平気かな?」
ご飯の上にわさびつけた方がらしいんだけど……よく考えたら大人だからと言って得意とは限らなかった。
私は地球で、日本で、わさびは食べ慣れているから平気だけど、ローファスさんやサーガさんも苦手かもしれない。
「やっぱり、私の食べるもの以外はわさびは入れません。つけて食べる方法を選択することにします」
と、カーツ君とキリカちゃんに宣言して、ひたすら握る。
いったい、どれくらい食べるのか見当もつかない。
焼きおにぎりと違って、一つが小さいので、数はなかなかのものだ。
ああ、魚介類が欲しいけれど、それ以上に海苔が欲しい。
海苔。
海はあるよね?海があっても海苔があるとは限らないか。
街に行ってやっぱり何があるか見ないと。
「さぁ、もうこれくらいでいいかな」
まだ酢飯は残っているけれど、ラップがあるわけでもないので、時間がたつと寿司が乾燥してまずくなるのでほどほどのところで作るのはおしまい。
また後で足りなければ作ればいい。
「じゃぁ、ご飯にしましょう!」
いつもの夕飯には少し早い時間だ。
だけれど、クラーケン登場騒ぎで、3日間ずっとダンジョンに避難していてろくな食事をしていなかったから、久しぶりのまともな食事。
少しくらい時間が早くなってもみんな食べられるよね?
いつもありがとう。
ユーリさん、味見しちゃったけど、毒とかあったらどうするんですかぁぁぁ!
あ、これ、薬を口移しで飲ませるフラグだ。
……ごめん、この作品にそんなフラグは立たないのだ。期待している人がいるといけないので断っておく。