74 毒消し草
「ローファスさん、いくら家族だからって、勝手にだめですよっ!そういうわがままばかりしてると、嫌われますよ!ちゃんと飴はサーガさんに返してくださいっ!」
びしっと言うと、ローファスさんがしゅんっとなった。……さっき、反省してなかった?もう忘れたのかな……。
はー。
「ユーリ、ごめん。嫌いにならないでほしい。あの、料理また作ってくれるよな?」
「謝るなら、サーガさんに、でしょう?ちゃんと反省して次から気を付けてくれるなら、嫌ったりしませんし、料理もします」
「反省した!いくら弟でもすまなかった。悪かった。サーガ、返す」
サーガさんはそこでやっと正気を取り戻した……んじゃなくて、正気かな?っていくくらい勢いよくげらげら笑いだした。
「ははははははっ。ユーリちゃんすごいね。小さいのに、兄さんを言い負かすなんて。気に入ったよ。兄さんにはあげないけど、ユーリちゃんにはあげる。いくつ欲しい?とはいっても、今は手持ちが少ししかないから、3つでいいかな?」
ころりと、丸い飴玉を3つもらった。
「え、あの、本当に、私、欲しいわけじゃなくて……。砂糖があれば、作れるクラーケン料理があったのになと言っただけで……」
サーガさんが首を傾げた。
「それは本当なの?クラーケンが食べられるなんて」
ローファスさんがサーガさんをにらむ。
「ユーリが嘘をつくわけないだろう!」
いやいやいやっ!何、その全幅の信頼みたいな言葉!
「はいはい。兄さんは黙っていてくれます?」
「えっと、故郷ではクラーケンに似た生き物を食べてたんです。だから、食べられるかなって思ったのですが……本当に食べられるかどうかは食べてみないと……分からないというか……。毒とかはないですよね?」
同じっぽいからって油断して毒とか洒落にならないので確認。
「大丈夫だ、ユーリ!」
ローファスさんがどんっと胸を叩いた。
「毒消し草も持ってる!」
大丈夫の方向性が違う……。
それ、絶対、違う……。
自慢げに鞄から太い茎のついた葉っぱを取り出した。
「兄さん、それ、ハズレ毒消し草ですね……どこから取ってきたかしりませんけど、見分けが付かないんですか?っていうか鑑定魔法が使えるんですからめんどくさがらずに鑑定してください……それか、もう自分で採取せずにちゃんと薬屋で買いなさい……」
サーガさんが白い眼をローファスさんに向ける。
「え?まじか!ハズレのやつか!よかった、かじる前で。毒に侵された状態で、ハズレ毒消し草食べたら鼻から目から口からいろんなもの出るところだった」
ま、まじ?
「ローファスさん、ハズレ毒消し草って、食べたら毒なんですか?」
「いいや、毒じゃないけど、ひどい味だ……毒だと思うほどひどいが毒ではない」
ローファスさんの手からハズレ毒消し草を受け取り、少し葉っぱをちぎってギュっとして匂いを嗅ぐ。
「はぁーーーっ、これ!ローファスさん、ください!これ、ハズレなんかじゃないです!大当たりです!私の故郷では、これは、」
はっと、クラーケンの身を見る。
「なんだ、またハズレは実はおいしいってあれなのか?いいぞ、いくらでも取ってきてやる!」
ローファスさんが歓喜。
「は?何ですか、そのハズレが実はって?」
まったく、ローファスさんは自分で秘密にするって言っておきながら、口が軽いなぁ……。
「【契約 小屋で知りえた情報及び、秘密だと言ったことを口外しない ユーリのご飯】」
ローファスさんが突然サーガさんに契約を持ちかけた。
サーガさんが首を横に振る。
うん。そうだ。ご飯でほいほい契約結ぶ人なんて世の中そんなにいるわけが……あ、目の前の筋肉がそうだけど。
「【契約 兄さんが冒険者引退後家に戻る 秘密だと言ったことを口外しない】」
ニヤリとサーガさんが笑う。
「【契約成立!】」
速攻で契約成立を口にしたローファスさんに、サーガさんが口をあんぐり開けた。
「は?あれほど家に戻るのを嫌がってた兄さんが、引退後とはいえ……そんなに簡単に契約成立って……どれだけすごい秘密があるっていうんですか?」
って、二人の会話なんてどうでもいい。
だって、私の手には、ローファスさんからもらったハズレ毒消し草!
目の前にはタコ。
そして、飴だけど砂糖まで手に入っちゃったんだよ!
そりゃ、作るでしょう!作らせてもらいます!
ふふふーん。
二人に背を向けて包丁を握る。
「――王位継承が――公爵家の――」
「引退は――何歳までも――」
なんか後ろで話をしていますが……そうだ!
いつもご覧いただきありがとうございます!
GW終わりましたね!
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さてと、物騒な単語がちらほら……。
そして、じゃーんと取り出した毒消し草、ハズレでした。
おーい、S級冒険者!死ぬぞ!うっかり死ぬぞ!
……。大丈夫なのかな、こんなのりで。




