72 大家族!
「何を作るか決まったか?クラーケンが足りなきゃ、もっと持ってくるぞ?」
ニコニコしたままのローファスさんが小屋に顔を出す。
「まだできてません。それから……砂糖がないからできないです」
寿司も、酢飯は酢だけだとダメ。砂糖が欲しい。
「砂糖……か。分かった。大量には無理だが、少しなら手に入るかもしれない」
と、ローファスさんは小屋を出ていき、軍人を一人捕まえて何か話をし始めた。
そうです。軍人です。
巨大なクラーケンやそのほかのモンスター登場で、軍隊が討伐に来ました。
スタンピードって、ダンジョンから大量にモンスターが出てきちゃうんだって。街に被害がないように軍が一掃するらしいんだ。
でも、都合よく近所に軍が駐屯してないから、到着まで数日かかるの。で、到着までは冒険者に強制依頼が発動するんだって。今回は上級ダンジョンから出たモンスターだからD級以上の冒険者が駆り出されたらしいです。はい。
……うん、レベル10になって魔法も使いたいけど……。
こんなでっかいモンスター相手に戦う自信はないです。
クラーケンを見てまたため息。
D級には上がらないように……というか上がれないかな。スタートも遅いし。まだ5歳児並みだし。
やっぱり、冒険者見習い卒業して、レベル10になって冒険者を名乗れるようになったら……冒険者食堂みたいなので働こう。働き口探そう。
いや、ローファスさんに探してもらおうかな。
軍の到着まで3日かかったため、その間にローファスさんとブライス君が巨大クラーケンは倒した。レベル10になったばかりのブライス君も大活躍だ。……レベル10て、そんなに強くないとだめなの?って思ったらブライス君は規格外らしい。
なんと、冒険者として飛び級してF級からD級に1日で上がったほどだと……言われても、どれほどすごいかは全然わからなかったけどね。
で、軍の人たちは、街をモンスターが襲わないようにと、森の中をうろつく残りのモンスター掃討作戦決行中。
「だから、砂糖は持ってませんって!」
「じゃぁ、それでいい。甘いんだよな、それ」
「それでいいって、あげませんよっ!」
ローファスさんが軍人の持つ革袋を引っ張って小屋の中に入ってきた。
「ローファスさんっ!無理に人の物を取ってはダメだって言いましたよね?」
まったく。
この人は成長してないなぁ。
どうせ金は払うからいいだろうとか思ってるんだ。
「いや、その、金は払うし、後で買って返すし……【契約 飴を1つ 10倍にして返却】」
ローファスさんがバツの悪そうな顔して引っ張ってきた軍人に契約を持ち掛けた。
まぁ、反省はしてるのね。しまったって顔してるから……。
いい人だ。ローファスさん。女子供が偉そうに意見するな!とか怒らないんだから。
軍人さんは20代半ばだろうか?とても軍で働いているとは思えないほど肌が白くてきれいだ。
薄茶の髪と瞳。西洋系の顔というよりは、日本人と西洋人のハーフのような顔をしている。彫りがめちゃくちゃ深いわけでもないけれど、平べったいわけでもない。バリバリ西洋風の顔よりは、ずいぶん親しみの持てる顔だ。
軍人さんは契約成立のための言葉を口にしなかった。
「なぁ、頼むよ、サーガ。この通り」
ローファスさんが頭を下げた。
軍人さんの名前はサーガというらしい。
「10個買うお金で、自分で買えばいいでしょう!なんで私の派遣中の唯一の楽しみを奪おうとするんですか!隊を率いて指揮するのは精神的に疲れるんですからね?甘いもので癒されないとやってられません」
「え?サーガさん、隊を指導しているって……?若いのにすごいですね」
「すごくなんかないですよ。軍には貴族の次男三男も多いため、上官にも貴族が必要ってだけでめんどくさい地位を押し付けられただけですから」
え?
「そもそも兄さんが冒険者になるって逃げださなければ、今頃あなたがこの服着てたはずですよね?」
は?
「兄さん?」
「ああ、ユーリ。こいつ、サーガは俺の7番目の弟だ」
「な、七番目?」
子だくさん大家族……。
「兄さん、8番目です。間違えないでください」
「は、八番目?……何人兄弟がいるんですか……」
私の問いに、ローファスさんがサーガさんを見た。
「15人?」
「いえ、今16人で、もうすぐ17人目が生まれます」
じゅっ、じゅうななにん……。家族で野球チームが2つできるやつだ……。
びっくりしていると、サーガさんが親しみやすい笑顔でこちらを見た。
「正妻の子が3人、妾の子が4人、あとは養子ですよ」
正妻、妾、養子……。
目がぐーるぐーる。
ご覧いただきありがとうございます。
急展開。ローファスさんの正体が明らかに!
いやいや、まじか!
クラーケン料理……じゃなかった。タコとコーラで何が作れるかな……。




