ダンジョンルール、人助けは駄目
キリカちゃんがてとてとと歩いてブライス君の腕に絡みついた。
「うん。キリカ、お姉ちゃんにちゃんと教えてあげるんだ」
泣きそうな顔。
そうか。一緒に暮らしてきたお兄ちゃん的存在がいなくなるんだもん。寂しいよね。
まだ小さいというのに、親元を離れて暮らしているだけでも寂しいだろうに。
「ご飯食べようぜ!腹減った!」
しんみりした雰囲気を変えようとしたのか、カーツ君が大きな声を出した。
「これもローファスさんが設置してくれたんだ。ここにポーションを入れると、パンかじゃがいもがでてくるんだ。これで小屋でも食べるものに困らない」
と、カーツ君がポーションの瓶を小さな穴に一つ入れ「パン」と言うと、別の穴からパンがころんと出てきた。
自動販売機だ!すごい!
次にブライス君もパンを出した。
「キリカはどうする?」
ブライス君の言葉に、キリカちゃんはうーんと考えてから、首を横に振った。
「今日は2個しかポーションをとれなかったから、我慢する」
え?
「食べないと、大きくなれないよ?そうだ、私5つ取れたから、私が」
「ダメだ!」
キリカちゃんの分のパンも交換しようとポーションを穴に入れようとしたら止められた。
全員の目がこちらに向いている。
「ダンジョンルール、人に助けてもらえると思うな、助けを求めるな」
「な、何それ……?小さい子がお腹を空かせているのを助けちゃだめなの?」
全員がテーブルに座った。
私も、自分の分に出したパンを一つ持って席に座る。
「小さくても僕たちは冒険者です」
「そして、ここは冒険者としての心得を学び訓練する場所」
「あのね、お姉ちゃん。ダンジョンでモンスターと会って怪我しちゃったときに、別の冒険者が来たからって助けてもらおうって考えちゃだめなんだって。だって、助けようとした人が死んじゃうかもしれないんだよ?」
ハッと息をのむ。
そして、ローファスさんが携えていた剣を思い出す。
そうだ。ここは異世界で、剣と魔法の世界。死が日本よりも近くにある世界なのだ。
「だから、助けてもらおうとしちゃだめだし、助けようとしてもだめなの」
キリカちゃんは我慢するし、我慢しているキリカちゃんを助けないように我慢しなくちゃいけないってこと?
それは冒険者としての訓練。
ダンジョンで同情心から自らも命を落とすことがあってはいけないように。
そういえば、洞窟の中でダンジョンルールと何度か言っていた。
冒険者への詮索禁止も、相手のこと知って親しくなるといざというときに助けたくなってしまうから?
ぎゅっと両目をつむる。
「だけど、もし、怪我や病気で何日もポーションを収穫できなかったらどうするの?」
1食抜くくらいなら平気かもしれない。
「僕たちは冒険者だからね。物乞いじゃない。だから働いて食べる。働けなければ冒険者をやめる。働けるなら、取引する」
「取り引き?」
「例えばこんな風に。【契約 ユーリにポーション一つを貸し与える 等価返済】これで、ユーリさんに返してもらうことを条件に、ポーションを一つ渡すことができる。契約に同意する場合は【契約成立】と相手が言えば成立する。魔法で拘束されるからね、契約を破棄するにはそれなりのペナルティが課せられる」
そうなんだ。取り引き、契約か。
っていうことは、もしかして?
「ダンジョンでも使えるの?」
「もちろん。レベル1のユーリさんがD級モンスターに襲われたら危険だけど、ローファスさんならくしゃみをするより簡単にやっつけられるからね。見殺しにする方が寝覚めが悪いと思うよ。だから【契約 ダンジョンからの脱出支援 金貨5枚】とでもいえば助けてもらえる。」
そうなんだ。よかった。
誰にも助けを求められないとか、誰も助けないとか、そんな世界ではないんだ。
「契約を持ちかけられた方は、自分の能力で達成できる事柄で、報酬にも納得すれば契約成立を宣言すればいい」
うん。
逆にいいシステムなのかもしれない。
相手が死ぬかもしれないのに助けてっていうよりは、助けてって言いやすい。
「ローファスさんなら、パン1個でも助けてくれるよ」
「違いない!」
わはははと笑いが起きる。