66 塩!
「街で買って持ってくるからなー」
手渡した紙を広げて、ローファスさんが見た。
日本語で書いてあるのに、本当に読めるのかな?
「鑑定」
鑑定?
何それ!
「なになに?塩、塩、塩、塩……ん?そんなに大量に塩が欲しいのか?」
え?
何て書いたんだっけ?
そうだ。
塩、しお、シオ、shio、soltって、本当に読めるかどうか分からなったからいろいろな書き方をしたんだ。
「で、これは何のことだ?鑑定じゃ意味が分からないんだが」
と、ローファスさんがsoltを指さした。
まさか、日本語は通じるのに英語はダメ?
あっ、あっ、あーーーーーーっ!
「こ、これ、間違い、あの、間違いですっ!意味はないのっ!」
そうだ、そうだよっ!思い出した!
やらかしたー!
塩は英語で「ソルト」だけどつづりは「salt」だった。
こんな簡単な英語もできないんじゃ、お前が外で働くなんて無理だろう――って主人に言われたんだ。
「本当ですか?ユーリさんの故郷にはあって、こちらにないだけとか?鑑定」
ブライス君がじぃーっと紙をのぞき込んだ。
「人の名前ですか……誰なんです?ソルトって」
「え?なんだよ、ブライス、俺よりすでに鑑定魔法レベル上かよっ!」
鑑定って、鑑定魔法?
言葉の意味がそれで分かるなんて便利!駅前留学とか必要ないじゃんっ!
「ユーリさん、思わず紙に書いてしまうほど、心を占めている人がいるんですか?このソルトっていう人物が……」
誰よ、誰なの、ソルトって!
ブライス君が悲しそうな顔をして聞いてくる。
「違います、あの、ちょっと、書き間違えたんですっ、ほんとうはこう書こうと思ったんですっ!」
うわーん。
結局みんなの前で恥をさらしてしまいました。
顔を赤くしながら紙の文字を二本線で消して隣に書き直す。
「塩……そんなに塩が欲しかったのか。たくさん持ってくるからな!」
ローファスさんがどーんと胸を叩いた。
いや、違う、そうじゃなくてっ!
「ユーリさん……よかった。僕の知らない誰かを思っているのかと思ったら……ごめんなさい。冷静さを欠きました。だめですね。まだまだ僕も子供のようです……」
いや、子供だよ、子供。どこからどう見ても!
「ははは、ユーリもまだまだ子供だからな。間違えなんて気にすることはないよっ。大人だってろくに文字が書けないものなんてたくさんいるんだ。ギルドの依頼書だって間違いだらけだぞ?」
ぐりぐりとローファスさんい頭を撫でられる。
うー、大人だから恥ずかしいんです!しかも、書かなくてもいい英語をわざわざ書き加えてそれが間違ってたとか……。
うううっ。
「じゃ、カーツもキリカもユーリも、一週間くらいでまた来るからな」
「え?いつもひと月に1回なのに?どうして?」
キリカちゃんが首を傾げた。
「頼まれた食材運ばないといけないからな。それから、ポーションを保存するための箱とか持ってこないとダメだろ?これからどんどん増えるだろうからな」
それを聞いてカーツ君が手を打った。
「そっか!うん、そうだよな。俺、ユーリ姉ちゃんに会いたくて来るのかと思った」
え?
私に会いたい?
びっくりしてローファスさんの顔を見る。
「私、確かにレベルが低いですけど、そこまでだめな人間だと……思われてますか?」
お前に何ができる、お前に働けるわけがないだろう、家のことしかできないくせに、外に出ても周りに迷惑をかけるだけだ。
働きたいと言った時の主人の言葉が頭に押し寄せてきて心臓がバクバクして来た。
「いっ、いや、違う、違う、ユーリ、そんな泣きそうな顔をするなっ!」
私、泣きそう?
「そうですよ、ユーリさん。どうせローファスさんのことだから、食材を持ってきたついでにユーリさんの料理を食べられるっていう下心があってのことなんですよ」
ローファスさんがうっと言葉を詰まらせた。
ご覧いただきありがとうございます。
ええ、そうです。ずいぶん前に、感想欄にてつづりが違うとご指摘を受けていた、solt……まさかの鑑定能力知るための伏線でした。にゃーん。
……という感じで、時々間違いをも話に盛り込むこともあるのですが、……わざと間違えて書いてあることもあれば、うっかり間違えちゃうこともあれば、間違えて覚えていることもあるので、何がどうなのか見分ける方法はないので、とにかく「ちがうーっ!」って教えていただけると嬉しいです。
あ、ちなみに、soltは一番初めにご指摘を受け(アルファポリス掲載時)るまで気が付きませんでした。
でもって、修正せずに放置したのは、伏線にするためでした。わははは。




