61 将来の夢
「あ、ユーリお姉ちゃん、見て見て!キリカね、昨日より上手になったでしょ?」
キリカちゃんの握ったおにぎりは、昨日よりもしっかりと固まっていた。昨日はご飯がばらばらと崩れそうな部分が多かったけれど。
「うん、上手になったねぇ!私の分も作ってくれるとうれしいな」
「いいよ!キリカ、ユーリお姉ちゃんの分も作るね!」
みんなが焼きおにぎりを作っている間に、ブライス君とローファスさんのお弁当を作る。
……本当に、二人ともいなくなっちゃうんだ……。
寂しい。
……。
うん、寂しくなんかない。
カーツ君とキリカちゃんもいるんだし、それに、ブライス君もファーズさんも、一生会えないわけでも私たちを捨てていくわけでもなくて、仕事があるんだから。そう、うん。
単身赴任の夫が月に1度帰ってくるみたいなものだよね?
「うわぁっ!」
何考えてるんだろう。
違う、違う!
単身赴任の夫って……。何考えてるの、私!ローファスさんもブライス君も夫じゃないから!
えっと、違う、月に一度帰ってくるのはえーっと、えーっと、新聞の集金とか?
「どうしたんですか?ユーリさん?」
声を上げた私を心配してブライス君が顔をのぞいた。
こんなきれいな顔をした少年が新聞の集金のわけはありませんね。はい。
「なんでもないの。えっと、昨日干した一夜干し取ってくるね!」
薄切り角煮の一夜干しを取りに行く。
薄切りにしてパンにはさみやすい形にしてあるから、もうすでに四角くない。でも角煮でいいのかな?ん?
そういえば薄切り肉をくるくる巻いて束にして作る短時間角煮レシピみたいなのもあったからいいのかな?
と、別のことを考えて気持ちを落ち着かせる。
あ、そうだ。下宿屋の女将さんと、下宿を巣立っていった子供たちってどうかな。
月に一度は顔を見せてくれるって、うん、そんな関係?
そっか。小屋が下宿屋なら……私、冒険者兼下宿屋の女将さんみたいな小屋の管理人っていうのもいいなぁ。
きっと、ブライス君のようにレベルが10になって出ていく子供たちがいる一方、レベルを上げるために新しくやってくる子供たちもいるはずだ。
大人がいた方が絶対にいい。
っていうのは、私が過保護すぎるのかな……。
それにしても、なんだか楽しい。
何もできないって言われてた私が、今は「何ができるかな」「何をしようかな」って将来のこといろいろ考えてるなんて。
まずはレベルを10まで上げて、冒険者って名乗れるようになって……。
食堂で働くのもいい。下宿屋で働くのもいい。ローファスさんに頼んで小屋の管理人にしてもらうっていうのもいいかも。それか、冒険者としていくつか仕事をこなして、自分に合う仕事を見つけることだってできるはず。
だって、レベル10になれば魔法が使えるようになるんだもん。魔法が使えるようになったら、できることが増えたら、やりたいことも増えるかもしれない。
「大丈夫、だよね、これ?」
昨日ブライス君にもらって食べた一夜干しの干し肉の味を思い出す。
吐き出さずに飲み込むのがやっとの肉臭い味だった。
角煮として味付けしてから干したわけだけど……臭みが味付けに勝ってるなんてことなよね?
もしそうだとしたら、パンにはさんでお弁当にするのは考え直さないといけない。
一番小さい角煮の干し肉を手に取って、口をあーんと開ける。
……口に入れない。
味見だけなんだから、もっと小さくてもいい。
どうしても昨日のあれを思い出して躊躇しちゃう。
小さな角煮干しを、さらにちぎって小指の爪程度の大きさにして口に入れる。
「ぱくん」
あっ!
ちぎった残りを口に入れて、肉を噛む。
「おいしい」
味が凝縮されてる。噛めば噛むだけ旨みが出てくる感じだ。スルメの角煮版って言えばいいだろうか?ぎゅぅーって噛むたびにうまい!
これはいい。あ、でもちょっとハンバーガーっぽいものにはならなさそうだなぁ。サンドイッチ系の方が食べやすそうだ。
パンも丸いのを半分に切って使うんじゃなくて、薄切りにしよう。
そこに、レタス、角煮干し、レタス、角煮干し、レタスと、何層かにしてたっぷり挟んで……。おいしそう。
むふふんふーんと鼻歌交じりに小屋に戻る。
「ローファスさん、ブライス君、お弁当にパンを使うので自販機でパン出してねー」
ポーション1つ入れると出てくる例のアレ。
「お弁当はパンか」
ローファスさんがうなだれた。
え?何で?
いつもありがとうございます。
三十路で将来どうしようかなって色々考えられるのはとても幸せなことですよね。
日本にいても本当は三十路はまだ色々とできるはずなのですが……現実的には難しいですよね。切ない……。
とはいえ、私は三十路超えてから、まさかの小説出版だったので、人生何が起きるか分からない。
注*私、三十路は30代のことだとちょっと前まで勘違いしてました。三十路って30歳のことなんですよ。知ってました?