ローファスさん、バカなんて思ってごめんなさい
ポーションの選別をしてキリカちゃんに確認する。
「これでいいかな?」
「うん。そうよ!」
キリカちゃんから合格をもらった。ポーションが5つ。ハズレが12。ハズレの方が圧倒的に多いなぁ。
「ハズレはどうしてハズレなの?毒?」
「毒ではないけれど、飲んでも回復効果はないんですよ」
そっか。
ふと、賞味期限切れって言葉が浮かんだ。
……賞味期限、切れてたって私、平気なタイプなんだよなぁ。
薄い黄色の瓶を手に取ると、かぽっとふたを開けた。
「あー、ユーリさん何してるんですかっ!」
口元に瓶を運んだらブライス君に止められた。
「毒じゃないですけど、すっごくまずいですよ。吐きますよ?」
吐くほどまずい?
ブライス君は私の手から取り上げた瓶をそのまま地面に落とした。瓶が倒れ中身がこぼれる。瓶から中身がすべてなくなったとたんに瓶が黄色に光って砂になって消えた。
あ!
瓶だけ利用することもできないのか……。ゴミが増えなくていいといえばいいけど……。
ハズレポーションは本当にハズレなんだ。瓶だけでも使えれば取っておいてもいいかなぁと思ったけど。
ん?あれ?
ふと、よく知っている匂いを感じた。
おいしそうな匂い。
そう思ったとたんにお腹が鳴った。
「次は小屋の説明が必要だね」
ブライス君がにこっと笑って小屋に向かって歩き出した。
小屋は個室が10にダイニングキッチンと居間でできている。
「こっちがキリカの部屋。お姉ちゃんどの部屋使う?隣開いてるよ」
「じゃぁ、キリカちゃんの隣の部屋」
「うんとね、じゃぁ、扉のそこにカードを近づけて登録って言うのよ。そうしたらユーリお姉ちゃんの部屋になるの。お姉ちゃん以外の人が出入りするのにはお姉ちゃんの許可が必要になるのよ」
カード?
「カードって、このギルドで登録したときのこれ?」
キリカちゃんが頷いたので説明を受けたように扉にある小さなでっぱりにカードを近づけて登録と言ってみた。
ホテルのカードキーみたいなものなのかな?
「ポーションは月に1度回収されます。それまでは部屋に保管してください。他の人間が入れないので安全です」
安全?この子たちが盗みを働くとは思えないけど?
「この小屋も、小屋の中のものも、全部ローファスさんが用意してくれたんだよっ!昔は、野宿しながらポーション畑でみんな働いてたんだって」
カーツ君がまた目をキラキラさせてローファスさんの話を始めた。
へー。すごいなぁ。小屋って言ったって、粗末なあばら家ではない。ログハウスのようなしっかりした建物だ。部屋数はかなりある。
それに設備にしても、居間にはしっかりとしたテーブルやいすが並んでいる。
「ユーリさんは、どこまで冒険者のことを知ってますか?」
ブライス君の言葉に全然だと答える。
「お金のある人間は冒険者養成学校へ通うんです。お金のない人間がポーション畑やほかの仕事でお金を稼ぎながら冒険者としての心得を学び、レベルを上げる」
へぇ。冒険者養成学校なんてものもあるんだ。
ここに居るキリカちゃんやカーツ君やブライト君はお金のない子供たちってことなのか。
「貧しい子供たちが、レベルを上げながらお金を稼ぐためにポーションを収穫する場所なんです。野宿も貧しい食事も耐えられないようなら冒険者としては生きていけない。だから野宿でも平気なんです」
うっ。そうなの?野宿か……。
キャンプみたいなものを想像して、それとは違うんだろうなぁと思いなおす。冒険者としてこの先生きていくならば、野宿の覚悟も必要なのか。
「だけれど、せっかく収穫したポーションを奪われる。そのために傷つけられる。それでは冒険者になる前に生きていくことすらできない。だから、ローファスさんは未来の冒険者のためにこの小屋を建ててくれたんです」
あ。そういうことか!
他の人が入れなくて安全というのは、子供たち同士でポーションを盗むということではなくて、外部の悪い人たちが手を出せなくて安全ってことか。うん、確かに子供達だけで生活してたら狙われるかもしれない。守りたかったんだね。子供たちを!
いい人だ。
ローファスさん、めっちゃいい人だ。
結婚よりもきっと、優先することが多すぎるタイプだ。いっつも子供たちのためにお金使ってすっからかんとか、そういうタイプだ。
「しかも、安宿なんかよりよっぽどいいベッド使っているから居心地はいいですよ。僕もここを出ていくのが辛いくらいだ」
「え?ブライス君、出ていくって?」
「レベルが10になれば、初級ダンジョンに入れるようになる。だからここは卒業。お姉さんが来てくれてよかった。ちびたち2人を残していくのは少し不安だったんだ。いいか、カーツ、キリカ、ダンジョンルールはお前たちがしっかりユーリさんに教えてあげるんだぞ」
え?うそっ!ブライス君いなくなっちゃうの?