53 高い高い
そうだ、吐き気止めにシナモンがいいって聞いたことがある。
畑にシナモンっぽいものなかったよな。あれ?シナモンって、畑じゃないか。確か、木の皮だ。
なんの木だろう?匂いを嗅げば分かるかな?はいでみないと分からないかな?
シナモンがあったら、シナモンバタートーストがまず食べたい。
次にアップルパイ!
ああ、どれも砂糖がいる。バターもあるのかな?何かしらの動物の乳があればありそうだ。リンゴはどうだろう?
砂糖は贅沢品……はー。うん、その贅沢な砂糖を年に何回かは食べられるくらいがんばって働こう。
誕生日ケーキとか特別なときに砂糖なしは日本育ちの私にはきつい。……贅沢すぎるんだろうな、きっと。
上がってきた酸っぱいものを飲み込む。
メモをせめて。
皮を剥いでからの手順を、声を頼りにメモを確認し、足りない部分に書き足していく。
「ユーリ!すごいな!」
視界がぶおっと移動する。
ちょ、えええっ。
気が付けば、ローファスさんに高い高いされてた。
「おっ、おろしてくださいっ!」
この年で、高い高いされるとか、ありえない、ありえない!
っていうか、ローファスさんどんな力持ちですかっ!いくら私は日本人の中でも小柄で体重も軽いからって……。
顔が真っ赤になる。
恥ずかしすぎるっ。
「あー、すまん。いや、うん……」
つられたのかローファスさんの顔も赤くなる。
「いいなぁー」
地面に足が付くと、キリカちゃんの声が聞こえた。
「おお、キリカ、それ!」
キリカちゃんはあっと言うかに宙に浮いた。高い高いと上に持ち上げるだけじゃなくて、ローファスさんは上空に放り投げた。
うおっ!
「きゃははははっ」
キリカちゃんは楽しそう。
「お、カーツもどうだ?」
ローファスさんの言葉にカーツ君がぷいっと横を向いた。
「そんな子供じゃないよ」
「あはは、そうか、そうか!」
ローファスさんはそういいながらカーツ君も持ち上げて放り投げた。
げげっ、右手でキリカちゃん、左手でカーツ君をぽーんぽーんとアクロバティックに高い高いしてます。
いや、もう、高い高いじゃないよ……。人間ジャグリング……。
それにしてもキリカちゃんは放り上げられて上手にくるりくるりと回転している。まるで動きが猫みたいだ。
「遊んでないで、さっさと処理したいんですけどね」
ブライス君が人間ジャグリング中のローファスさんに冷たい言葉を浴びせた。
「あーすまん。いや、ユーリ、これすごいぞ。ギルドに報告して広めてもいいか?」
「はい、どうぞ」
高い高いの衝撃で吐き気が収まった。はー。今回は吐かずに済んだ。
うん、大丈夫。少しずつ慣れるしかない。焦ってもダメだ。
できない無理、絶対ダメだとか思わない。自分で限界決めちゃだめだ。できる。少しずつできるようになる。
「おい、あっさり許可してくれるのはいいが、レシピと違って使用料は取れないぞ?」
「はい。別に構いませんけど?っていうか、むしろギルドの報告すると使用料がかかるなら、報告せずにみんなに教えてあげた方がいいんじゃないですか?」
首をかしげる。
「え?」
ローファスさんが驚きの声を上げる。
「だって、皆の役に立つんでしょう?」
「あー、いや、うーん。ユーリはいい子だな」
頭を撫でられました。
まったく、ローファスさんにとって私は完全に子供ですね。実は同じ年だと知ったらどんな顔をするだろう。
ふふふ。いつか驚く顔が見てみたいかも。
「じゃぁ、こんなのはどうです?ローファスさん革袋持ってますよね?」
「ん?あるぞ。今は水入って無くて空だが」
ローファスさんが腰にぶら下げた革袋をブライス君に渡した。巾着っぽいものかと思っていたら、飲み口のついた水筒に使う袋のようだ。
ブライス君がバケツの中に入っていた水の魔法石と火の魔法石を革袋の中に入れた。
そして、ペンのようなものを取り出し革袋の表面に何かを書き出した。
「起動の声で以下の事柄を実行、解除の声で停止。水の魔法石は革袋の中を水で常に満たし続ける。火の魔法石は63度に水を温め続ける」
書いた場所がうっすらと光って見える。光るインク?ううん違う。すぐに光は消えて、まるで元の革袋に戻った。
いつもご覧いただきありがとうございます。
ついにブライス君のチートの片鱗が!
皆様、生きている間に役に立つかわかりませんが、63度、覚えましたね?
ブクマ感想評価ありがとうございます。そして、暖かいお言葉に本当に励まされこうして続けられます。
感謝感謝です!
えーっと、この場を借りて少しだけお知らせを。
3月15日にくいしんぼう巫女と猫竜王っていう、コメディっぽいファンタジーな飯テロ少しざまぁ少しの小説がビーズログ文庫さんより発売されます。




