閑話*日本では
注*使い方守れば大丈夫ですよ。
ああ、頭が痛い。
ガンガンと頭全体が内側から何かに突き破られるような痛みだ。
うとうととソファで眠ってしまったからか。
風邪を引いたか?
痛む頭を押さえながら、上半身を起こす。
ズキンッ。
イタタタ。
うっ。
吐き気が。トイレ、いや、トイレは決して綺麗とは言いがたい。
洗面器、そう、洗面器だ。
痛む頭、今にも吐きそうな気持ち悪さ。洗面器を取りに行こうと立ち上がると、足元がふらつく。
おい、主人がこんなにも大変な状態なのに、お前はどこで油を売っているんだ。畜生。やっぱり慰謝料など1円足りともし払うものか。むしろ、お前のせいで、こんなひどい目にあっているのだ。
逆に慰謝料を請求してやるっ!って、あいつに支払い能力なんてないからな。くっ。非生産的な存在だよ。専業主婦ってやつは。1円もこの10年で稼いでないんだからな。
ああ、だめだ。気持ちが悪い、頭が割れそうだ。
足元が揺れる。
ガタン。
床に倒れこんでしまった。
ああ、本当にだめだ。
意識が朦朧としてきた。このまま俺は、病気で何とかなっちまうのか?
そうだ、救急車だ。
何とか上半身をあげ、ソファテーブルの上に置いてあるスマホを手に取る。
1、1、9。
「どうしました?」
飛びそうな意識、気持ち悪さと頭痛のひどさを訴え、住所を伝える。
どれくらい待っただろうか。救急隊員が駆けつけてきた。玄関がノックされる。
ドアが開いたが、チェーンがしてあるため救急隊員たちが入ってこられないようだ。
「チェーンを開けてもらえますか?」
チェーンを?
どうやって、玄関まで歩いていくこともできないというのに。
「大丈夫ですか?」
チェーンの切断して入るようだ。何か音が聞こえてきた。
「この臭いは……」
「換気だ、すぐに換気を」
救急車で病院につれていかれ、1、2間後、すぐに帰宅の許可が降りた。
「いいですか、危険ですから必ず換気を行いながら注意事項を守って使用してください。甘く見ては本当に命に関わることがありますからね?」
年配のベテラン看護士が、俺につけっれていた何かを計測するための機械をはずしながら、説教めいたことをいう。
治療費の支払い説明のため、まだふらつく足で説明を受けるための場所に移動した。
「だれか連絡して迎えに来てもらえますか?」
首を横に降る。
「では、もう少し休んで足元がしっかりしてから帰ってください」
体を横たえることもできる椅子へと移動させられた。次々と救急患者が来ている。
「あんた、風呂掃除のカビ取り剤のガスで救急車呼んだんだって?」
「救急隊員が部屋中に臭いが充満していたとか医師に説明してたのを聞いたよ」
隣に座っていた夫婦が話かけてきた。
「迷惑な話だよねぇ。救急車呼ぶほどのことかい。ちゃんと説明書き読んで使えばこんなことにならないのにねぇ」
「あんたみたいな人がいるから医療費負担が増えるんだよ」
くそっ!
なんだ、こいつら。
俺が悪いみたいな言い方しやがって。
俺は、シュシュっとして待って流すだけだと、主婦が手間をかけずに簡単にカビ掃除ができると言うものを使っただけだぞ?
命の危険だ?
迷惑だ?
俺が悪いんじゃないっ!
出ていったあいつが悪い。
説明だって「混ぜるな」というところは確かめた。だから、他の洗剤は使わずにカビ取り剤だけを風呂場に振りかけただけだ。
「だいたい、夜にカビ掃除なんてのも常識にかけるね。近所迷惑もいいところだ……もうちょっと、大人として常識を身に付けた方がいいよ」
「お前は言い過ぎだよ。ごめんな、にいちゃん。まぁでも、カビ掃除は、マスクと眼鏡とゴム手袋と、天井もするならっシャワーキャップもあったほうがいいな。完全武装で換気扇回しっぱなしの窓も開けっぱなしで、完全武装したほうがいいよ。うちのやつは手の皮がめくれてからは俺がやることになったんだけどな。目は痛くなる、喉は痛くなる。頭痛や鼻に残る臭い、とにかく完全武装したほうがいい」
何が完全武装だ。
そんな話は知らない。
たかがカビ取り。
主婦どもが家事の合間にスプレーして、時間がたってから流すだけの簡単な仕事だろう?
今回俺は、換気をしなかった、だからこんな目にあっただけだ。
ああそうだ。
完全武装とかそんな大袈裟な作業を主婦どもが日々してるわけないだろう。
畜生。
知らなかっただけだ。俺は非常識でも迷惑な人間でもない。
換気だろう、覚えたさ。
くそうっ!




