46 帰ってきた男
すいません、前の話の話数間違えてました。これ飛んでました。
私もスープを一口すくって飲む。
うん。鶏じゃないけれど、おいしい。
ブライス君がスープを口にして目を見開いた。
「これはすごい」
その時、バッターンと大きな音を立ててドアが開いた。
「ただいまー!腹減った、ごはーん!」
ローファスさんだ。
帰ってくるなりそのセリフ。まるでドラマの中の男子高生みたいでちょっとおかしかった。
「お手伝いしてないでしょ?」
キリカちゃんがすかさずローファスさんをびしっと指さした。
「いや、ほら、手伝った。これこれ。食材捕まえてきたから」
どっしんと、背中に背負っていた荷物をローファスさんがおろした。
「ぎゃっ!」
思わずかわいげのない悲鳴を上げてしまう。
荷物だと思っていた背中の塊は、小ぶりの猪だった。
「ローファスさん、食事中ですっ!外に出してください!」
死体を見ながら食事をする趣味はない!それに、毛とかなんかいろいろ舞い上がってご飯に入りそうだ。もう!
「あー、すまん……」
ローファスさんがすごすごと外に出ていった。
「食事のあと、処理しますね。カーツやキリカとユーリさんだけじゃまだむつかしいですよね」
ブライス君の言葉に素直にうなずく。
「ありがとう。そうだ、今度は豚骨スープにチャレンジしてみようかな?」
「豚骨スープ?」
猪の骨からもスープが作れたはずだ。なにかのお祭りで見た。豚骨ラーメンならぬ、猪骨ラーメンが売っているのを。
たぶん、基本的な作り方は鶏がらスープと同じだと思っていいよね?
ああ、でもまだ鶏がらスープもたくさん残ってる状態で、豚骨スープを作っても食べきれないか。冷蔵庫もないし。冷凍保存もできない。
明日になれば、私とカーツ君とキリカちゃんの3人になっちゃうんだし……。
「ううん、何でもない。またそのうちね」
「あー、腹減った」
ローファスさんが戻ってきた。
慌てて鍋からローファスさんの食事をよそってテーブルに置く。まだ温めなおさなくても十分温かい。
「はい、どうぞ。このスープはカーツ君が手伝ってくれたんですよ。だからとてもおいしくできました」
テーブルに器を置くやいなや、ローファスさんは器を両手で持ってごくごくとスープを飲みだした。
「うまい!おかわり!」
「え?あ、はい」
勢いで素直に器を受け取ってしまったけれど、ローファスさんは立ったまま飲んでた。注意しなくちゃ。お行儀が悪いです。
「カーツが手伝ったのか。うまいぞ。すごいなカーツ」
ローファスさんがニコニコ顔でカーツ君の頭をなでている。お行儀……まぁ、うん。今はいいや。
「へへっ。少し手伝っただけだけどな。ユーリ姉ちゃんがすごいんだよ」
言葉の内容とは裏腹に、カーツ君はとてもうれしそうな顔をしている。
「キリカも手伝ったのよ、これ、キリカが作ったの!ローファスさん食べて!」
キリカちゃんがローファスさんに焼きおにぎりを差し出した。
形が悪い焼きおにぎりだけれど、キリカちゃんが小さな手で一生懸命握ったものだ。
「すごいなキリカ、おいしそうだ」
あ
「待って!」
ローファスさんの手をがっつりつかんで食べようとするのを止める。
しまった。つい忘れいていた。
焼きおにぎりに使ったのは醤油。
醤油は確か守備力に補正値がつくんだったっけ。
ローファスさんが先に口にした鶏がらスープには幸い醤油は使っていない。
「効果を調べないと。私が作ってもキリカちゃんが作っても同じなのか」
「おお、そうか。ステータスオープン。お、スープの効果がさっそく出てるな。HPに補正値がついてる。回復スピードも速いなぁ」
料理酒とジンジャーエールの効果だ。
「じゃぁ、キリカ食べるぞ」
ローファスさんがキリカちゃんの作った焼きおにぎりを一口で食べた。大きな口。
いや、キリカちゃんの作った焼きおにぎりが小さいから?
「うまいなぁ。キリカは天才だ。もう一ついいか」
「えへへ。いっぱいあるから、どんどん食べていいよ」
キリカちゃんが焼きおにぎりをローファスさんに差し出した。
ふふ。
楽しそうな顔、うれしそうな顔、幸せそうな顔。
食事だけで、こんなに素敵な瞬間が生まれるなんて不思議。えへへ。私も楽しくてうれしくて幸せ。