閑話*日本では
相変わらず、腹が立つだけなので、苦手な人はスルーしてください。
「あ、もう空か……」
買ってきたサラダに、いつものドレッシングをかける。
瓶の中身は今ので空になった。
「どこかに予備は置いてないのか?」
戸棚を開けてみるが、目に止まる場所にドレッシングの姿はない。
「買ってこないとないのか……」
夕食にサラダを買って帰るようになってから何日目になるだろうか。
まずい弁当も総菜も買うのはやめた。
比較的マシな味の物を選んで買うように変えたのだ。パンとサラダ。
サラダは野菜を切っただけだから、変な化学調味料の味付けもないので問題なく食べられる。
まぁ、多少食べにくい野菜が混じっていたからと言って、愛用のドレッシングをかけてしまえばおいしく食べられるのだ。
「どこに、売ってるんだったかな……」
記憶をたどる。
「何だ?これは?」
ある日、あいつがいつもとは違うドレッシングをテーブルに出したことがあった。
「近くのスーパーで、いつものドレッシングの取り扱いがなくなっちゃったの。なるべく同じようなのを選んだんだけど……」
「同じようなの?どこが同じなんだ?色か?臭いか?瓶の形か?あのドレッシングは、俺がいくつも食べた中でこれだと思ったものだぞ?近くのスーパーにないなら、別の店で買えばいいだろう?」
専業主婦なんか、暇だろうに。店を2つ3つ梯子して探すくらい大した手間じゃないだろう。
何故、働いて返ってくる俺のためにドレッシングの一つちゃんと用意しようと思わないんだろうな?
ぐーたらな嫁……だ。
次の日にはテーブルにいつものドレッシングが置かれた。
「あのね、色々と探したんだけど、駅ビルに入っているお店でやっと見つけたの」
何だよ、苦労自慢か?嫌な奴だな。
専業主婦なんだから、買い物程度で自慢げに話しするなよ。イラっとするな。
「それで、駅まではバスに乗らないといけないでしょう?だから、会社から帰る時に買ってきてほしいんだけど」
「どういうこと?俺にドレッシングを買って来てほしいって?それは、君の仕事を手伝えということ?じゃぁ、代わりに君は俺の仕事の何を手伝ってくれるのかな?代わりに営業してくれるの?しないよね?」
そうだ。あの時俺はそう答えた。
実際、あいつは一度に何本かまとめて買うことで駅ビルへ何度も行く必要がないと気が付いたわけだが、俺に言う前にそれくらい思いつけと言いたい。
だが、そのおかげで、ドレッシングが駅ビルに売っているということは思い出した。
だがしまったな。
あいつの話を遮らずに、店の名前まで聞いておくんだった。
駅ビル。
駅ビルには店がいくつも入っているが、どこにドレッシングが売っているんだ?
さて。空になったドレッシングの瓶はどうしたらいいんだ。
ゴミ出し表を見ると、ちょうど明日が瓶の回収日のようだ。
よく見れば、冷蔵庫の横にゴミの出し方という小冊子がぶら下がっている。
「ふっ。俺は非常識な人間じゃないからな。ただ、ちょっと知らなかっただけだ。すぐに完璧にゴミくらい出してやるさ」
明日もあの老人はゴミ集積所に立っているだろうか。今度は完璧な形で出してやるさ。
瓶は、蓋は材質により分別か。
ドレッシングの蓋はプラスチックだ。
取り外して流しにとりあえず置く。
それから、中を綺麗に洗う。
は、それくらいはどってことない。この間のペットボトルは何本もあったからちょっと俺には荷が重かっただけだ。
瓶の一つくらいいくらでも綺麗にしてやるさ。
それから、何?瓶の口のプラスチック部品を取り外す?
これ、外れるのか?
グイっと瓶の口についている白いプラスチックの注ぎ口を引っ張る。
つるりと、洗剤の残った手は滑って力が入らない。
「しまったな、洗う前に取るべきだったか。いや、ドレッシングの油でどうせ滑るか」
今度は手の洗剤をしっかり落とし、瓶の口と手を拭いて挑む。
ぐっと引っ張る。
駄目だ。外れない。
改めてプラスチック部品を観察する。切り取り線のような物は見当たらない。
畜生!どういうことだよっ!
ドレッシングの瓶を投げ捨てそうになったが、俺の目は節穴じゃない。
見つけた。瓶に張り付けられた紙に、キャップ部分の取り外し方が書いてある。
くぼんでる部分のところを引っ張り上げ?
「ここか」
小さいな。持ちにくい。引っ張るって、力が入らないぞ。
ぐっと引っ張ったら、つるりと抜けて、勢いよく手が流しのふちにガツンとぶつけた。
「っつ」
くそっ!
誰だ、こんな不便な形状に作り上げたのは!
一つ外すだけで、どれだけの時間が必要なんだ!何か道具を使うのか?
いや、説明書きには手で引っ張ってねじり切らずにそのまま持ち上げてとか書いてある。
くそっ。
こういう手間のかかることはしょせん時間の有り余ってる専業主婦の仕事なんだよ。
もおいい。たかだか瓶1本だ。あいつがかえって来たらやらせるさ。老人に良識ある姿を見せようと思ったが、やめだやめ!
1本なので、袋にもいれずにベランダに瓶を転がす。
次の日。
駅ビルの店を回りドレッシングを探した。
すぐに3つ目の店で見つけた。
色とりどりのドレッシングの中から、見慣れた瓶を手に取る。
「……」
そして、その隣に置いてあった似たようなドレッシングも手に取った。
プラスチック容器のドレッシング。
さて、ゴミ問題パート2!
瓶のキャップとりがめんどくさくて、焼肉のたれとかドレッシングとかなるべく瓶じゃないのを買うようになりました。どうしても取らないといけないときは、テレビで見たスプーンを使って簡単にキャップを取る方法を実行しています。




