子供たちに褒められた……複雑な気持ち
バシンッ!
手に持っていたスリッパもどきで、足元に近寄ってきた黒い悪魔を叩き潰す。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
恐る恐るスリッパもどきを持ち上げると、ひしゃげた黒い悪魔が黄色い光となって砂のように消え去った。
そして、手の平サイズの小さな瓶が現れる。
「おー、やったじゃん。ポーションゲット!」
これが、ポーション?
目の前に現れた小瓶をぼんやり見つめる私に、子供たちが騒ぐ。
「ああ、早く手に取らないと消えちゃうっ!」
「そうだよ、せっかく”当たり”だったのに、5秒以内に手に取らないとなくなっちゃうんだから!」
「モンスターをやっつけた本人しか取れないんだよ、急いで急いで!」
あ、え?
消える?
当たり?
モンスター?
言われるままに、急いで小瓶に手を伸ばす。
ああ、そうだった。黒い悪魔こと、ゴキブリそっくりの動きをする小さな生き物は、ゴキブリではなくスライムという名前のモンスターだった。
私、異世界に来ちゃったんだっけ。
カサカサ。
ひぎゃーっ!
黒い悪魔がっ!
バシンッ!
カサカサカサ。
うぎゃーっ、また来た!
聞いてない!聞いてないよぉ!
黒い悪魔が出るなんて、聞いてなかったんだから!
ローファスさんのバカァッ!
ポーションを手に、一度洞窟の外に出る。
無理。あんなにわさわさ黒い悪魔が出る場所にいるなんて、精神的に持たないよっ。
はーっ。
つかんだポーションを見る。
ポーションが100円。1日パン3つ食べて生きていくだけでも、あと2つはポーションが必要だ。
「楽な仕事なんてないんだよ。お前は甘いんだ」
主人の言葉が頭に響く。……くっ。
黒い悪魔がなんだ。怪我をするわけでも、死ぬわけでもない。
身寄りのない女が娼館に身を預けなくても食べていけるんなら……。
黒い悪魔の待つ地獄へと再び足を踏み入れる。
「ぎゃーっ」
バシ、ビシッ。
薄目にしたって見えるものは見えるんだけど、少しだけ距離を保てるような気がして薄目で洞窟の中を見る。
「ぎゃーっ!」
「お姉ちゃん、本当にすごいよ。S級冒険者のローファスさんでも、スライム相手にこんなに戦えないよ」
「ローファスさんなら1匹ずつつぶさずに洞窟ごとドカンできるよっ」
「で、ポーションもドカンだから役に立たないよ」
「ローファスさんを馬鹿にするなっ!」
「馬鹿にしてない。本当のことだもん。ローファスさんよりスライム相手なら絶対姉ちゃんのがすごいの!」
「そんなことないよっ!ローファスさんなら」
ん?
子供たちが口喧嘩を始めた?
原因は私?
「カーツ、キリカ」
一番年上の13歳くらいの男の子が口喧嘩を始めた子供の名を強い口調で呼んだ。
赤毛のそばかすの浮いた8歳くらいの男の子がカーツね。
ローファスさんはすごいって言っていた子だ。
ふわふわの薄い茶色の髪の毛の5歳くらいの女の子がキリカ。
私のことをすごいすごいと褒めてくれていた子だ。
「「ごめんなさい……」」
二人がしゅんっと頭を下げた。
「ダンジョン内での喧嘩は厳禁。命に係わる。今度から気を付けるんだぞ」
「ダンジョン?命?」
え?このポーション畑って、命に係わるようなことあるの?