44 キリカちゃんの手料理
そうだ。ご飯も炊かなくちゃ。
おかずはあるのにご飯がないとか一度だけやったことがある。
正確にはご飯がないことは何度かあったけど、パンやパスタなどで代用できた。カレーライスの時に一度だけご飯が無くて……。
まだ料理初心者だったころだ。うわーどうしようって焦りまくっていたら、
「大丈夫。今日は別の物を食べよう。カレーは明日食べよう。一晩寝かせたカレーになるからもっとおいしくなるよ」
と主人が外食に連れて行ってくれた。
いや、当時は結婚してなかった。まだ婚約の段階だったかなぁ。
ここでの生活は外食する場所もないんだから、ご飯炊き忘れたら、パンかジャガイモ……。うん。食べる物があるんだから十分だ。贅沢は言わない。
ご飯を焚いている間に、使う野菜や肉を洗って切る。皮むきはピーラーがないから少し時間がかかる。
皮は鶏がらスープへ野菜くずとして追加。途中でいれても平気かなぁ?まぁいいか。もったいないもん。入れちゃえ入れちゃえ。
ご飯が炊けた。よし。
外に出てキリカちゃんの姿を探す。いたいた。大量のポーション瓶の仕分けをしている。
「キリカちゃん、料理手伝ってくれる?」
声をかけると、ぱぁっと嬉しそうな顔がこちらに向いた。
「うん。キリカ頑張るよ!」
私以外の人が作っても効果があるのか確かめるためだ。
「じゃぁ、まずご飯を握ります」
比較の対象となるため私も作る。作るのは前に作った焼きおにぎり!
これならキリカちゃんにもできるはずだし、私が作ったものとキリカちゃんが作った物と効果を比較しやすいよね?味の失敗もよほどのことがなければ大丈夫だと思うし。丸焦げとか醤油をつけすぎるとかしない限り。
小さな小さなキリカちゃんの手で握ったいびつな形のおにぎりが10個。私が握った三角のおにぎりが5個。
「キリカ、ユーリお姉ちゃんみたいに上手にできない……」
「ううん、はじめてにしては上手よ!それに、手の大きさも違うからね?これからどんどんうまくなるよ。それにね、私はキリカちゃんが作ったのがおいしそうですごく食べたいよ」
「本当?」
「うん。だって、自分で作るよりも誰かが私のために作ってくれたものって、それだけでおいしいんだよ?」
ふと、亡くなった母親の料理を思い出す。
……食べたいなぁ。って思っても、もう二度と食べられない。なんで、生きている間に料理を教えてもらわなかったんだろう。
なんどカレーを作っても、ママの作ったカレーの味にはならないんだよ……。
カレーかぁ。この世界にカレー粉はないよねぇ。スパイスを組み合わせてカレーを作るなんて無理だから、もう二度とカレーは食べられないかもなぁ。
「あのね、あのね、この一番上手に握れたの、ユーリお姉ちゃんに食べてほしいのっ!これよだ、これ!」
キリカちゃんが、鉄板の中央にのってるおにぎりを一つ指さした。
「ありがとう」
うれしい。自分で作った物、自分で食べたいだろうに。一番上手にできたのくれるって言うんだ。
「じゃぁ続きね。醤油……黒のハズレポーションを塗ります」
はけがないので、スプーンに少し出してそれを少しずつおにぎりに乗せ、スプーンの背で急いで広げる。
ところどころたくさんかかったりしているのはご愛敬。
キリカちゃんが必死に醤油と格闘している。可愛い。
キリカちゃんの頭の両サイドにぴよんと出ている髪の毛を撫でる。ん?触り心地が少し硬い?
この両サイドにぴよんと出てる髪は、何かで固めてこういう髪型にしてるのかな?
この世界のオシャレ?
「塗れた!次は、焼くんだよね?」
「そうだよ。オーブンに入れようね」
どこまで手伝っていいのか分からない。あまり手伝い過ぎると、キリカちゃんの作った料理じゃなくなる可能性がある。
なので、重たい鉄板をキリカちゃんが運び、オーブンに入れる。火加減は口頭で教えてキリカちゃんがオーブンの調整。
うん。もちろん、キリカちゃんはオーブンの前に張り付いてじっと中を見ている。
分かる。分かる。私も初めてクッキーを焼いた時はずっと焼けるまでオーブンの中見てたもの。
キリカちゃんがオーブンに張り付いている間に、鶏がらスープの仕上げと、鶏肉とレンコンの料理。
あ、使った調味料、メモメモ。
よし、できたー!
カーツ君とブライス君を呼びに行く。
二人はポーションの仕分けをしていた。ハズレポーションの数を確保するために午後も何度か玉ねぎ囮板で一網打尽作戦を実行しているみたいだ。
「ご飯だよー」
「待ってました!」
カーツ君が満面の笑みで立ち上がった。
「ではポーションを運んだら食堂へ行きますね。カーツも運んでからだぞ」
「お、おう!」
ブライス君がポーションの中から当たりポーションの瓶を5つ差し出した。
ご覧いただきありがとうございます。
キリカちゃんの手料理~




