42 ありがとうとありがとう
ブルブルと気持ちを切り替えるために小さく頭を振る。
首からぶら下げた冒険者カードがキャミソールの上で揺れる。
おっと、これを落としたら大変だ。
脱いだ服の上にカードを置いてから、身を乗り出し池の中に手を突っ込む。
肩までぎりぎり手を突っ込み泥の中を漁る。
うーん、やっぱり無謀だったかなぁ。スコップみたいな、なんか柄の長い何かいるよな。
いや、もういっそロープを頼りに脱出できるようにして足から入った方が……。
と、思っていると手に固いものが触れた。
「あ!」
ぐっと握って引っ張り出す。
重い!いやいや、力いっぱい引っ張るけど、力負けするっ!
片手じゃ無理だ。両手を突っ込んで両手で引っ張る。
「へぶっ」
頭が池にダイブ。
げふ、げふ、げふっ。
水を少し飲んじゃったけど、でも、でも、でもっ!
「とったどーっ!」
と、思わず獲物を天に掲げてしまった。
「ははは。これ、水連じゃなくて蓮でしたよ!れんこんあったもん。ふふふ。れんこん……」
天ぷらにするとおいしいよねー。鶏ミンチをはさんで揚げるなんて最高じゃないかしら?
ちょうど鶏肉……、鶏じゃないけど、鳥の肉もあるし。
あ、でも、油がなかったっ!
ショック。菜の花とかあれば、菜種から油も作れるかな?
いや、でもまぁいいや。レンコン。何作ろうかな。
池の水で泥を洗い落とし、手をぶんぶんふって乾かしてからギルドカードを首にかけて服を着る。
コーラ味のMPポーションでレンコンを煮る?いやいや、ないない。
うーんと、えーっと。
レンコン持って岩場を慎重に降りていき、小屋の近くまで足を運んぶと、鶏ガラスープの香りがしてきた。
そうだった!鶏ガラスープ作ってたんだ!
ってことは、このレンコンは……。
うん。メニュー決まった。
「ただいまー、アク取りありがとうね!」
カーツ君はへへっと笑った。
「手伝うのは当たり前さ!お礼なんていらないよ」
うん。そうでした。働かざる者食うべからずでしたね。
でも……。
「当たり前のことでも、してもらったら嬉しいのは分かる?」
カーツ君が小さく首を傾ける。
「手伝ったんだから食べさせてもらえるのは当たり前って思う?それとも料理作ってもらえて嬉しいなって思う?」
「そりゃ、嬉しいっ!」
「うん。嬉しい気持ちをありがとうで伝えるの。カーツくんがお手伝いしてくれるの、食べさせてあげるんだから当たり前なんて私は思ってなくて、手伝ってもらえてうれしいし、感謝してるから。だから、ありがとう」
カーツ君のほっぺが少しピンクくなった。
「お、俺も、俺も手伝わせてくれてありがとう!」
え?
「これ、鳥の骨なのに、すんごくいい匂いがする。ゴミにしかならないのが食べ物になるの見てるのすごくワクワクして楽しいんだっ!」
ああ、うん。そうだね。
料理って楽しいよね。
「ふふ、そっか。よかった。お手伝いを楽しんでくれてありがとう」
お互いにありがとうありがとうって言うのがおかしくて思わずカーツ君と笑う。
「あー、なぁに?なぁに?楽しそう、キリカにも教えて?」
両手いっぱいにポーションの瓶をもったキリカちゃんが小屋に入ってきた。
手に荷物を持っても出入りができるように入り口のドアは開けっ放しだ。
「あのね、キリカちゃん夕飯はきっとおいしいものが食べられるよ?カーツ君が頑張ってくれたからね?」
「カーツお兄ちゃんが?」
キリカちゃんがちょっと驚いた声を出す。
「え?俺?」
カーツくんが焦った声を出す。
「楽しい気持ちで作った料理はおいしくなるからね?」
そっとカーツ君の頭をなでる。
「料理って楽しいの?キリカもやりたいなー」




