閑話*日本では
旦那サイド*相変わらず腹の立つ内容なので、苦手な方は読み飛ばし推奨
「ちょっと、ちょっと、困るんだよね、これ」
マンションのゴミ集積場所に袋を置くと声をかけられた。
口うるさそうな老人だ。もう仕事もリタイアして暇なのだろうか。ゴミの番人気取りか。
「困るとは?今日はペットボトル回収の日でしょう?」
だからわざわざこの俺が、袋に入れて持って来たというのに。
くそっ。
なんでこの俺がゴミ捨てなんてしなくちゃいけないんだ。
毎日のようにペットボトルを買って飲んでいたからかさばって仕方がない。冷蔵庫に貼ってあったゴミ収集日を見たら、ペットボトルは月に2回しか回収日がなかったのだ。
次の回収日まで待つと、玄関がペットボトルで埋まってしまいそうだ。
ゴミ捨てなど、この俺がしなくちゃならない屈辱と、次の回収日までペットボトルに囲まれて生活する屈辱とを天秤にかける。
はっ。
ゴミ捨てなんて袋に入れてマンションの集積所に置いてくるだけだ。そうだ。簡単なことだ。
プライドもくそもない。
妻の手伝いをするできた亭主だと世間はそう思うだろう。ああ、それも悪くない。
と、気持ちに折り合いをつけてゴミ捨てをすることにしたというのに。
困るっていうのはどういうことだ!
「これ、ちゃんと洗ってあるの?」
は?
ゴミを洗う?
「それに、キャップもつけたままだし、ラベルもそのままでしょう?何を考えてるの?」
キャップ?ラベル?
「ほら、ちゃんと洗って、こういう状態にして持ってきてもらわないと!」
集積場に積んである袋を一つ手に取り、老人は俺の前に突き出して見せた。
何の飲料が入っていたのかわからない透明な容器がつぶされてつめこまれている。
「きちんとルールを守れない非常識な人がマンションにいると、皆が迷惑するんで、頼みますよ?おたく、見ない顔だけど、名前なんていうの?」
非常識だと、この俺が?
イラっとするがぐっとこらえる。
「あー、スイマセンでした。妻がこの状態で玄関先に置いておいたので、持って行けばいいと思って……まだ出す用意がしてなかったみたいですね」
「あーそういうこと。あんた、何か奥さん怒らせることでもして、気を使ったつもりが失敗したってわけか?慣れないことはするもんじゃないな。ははははっ」
老人は俺の言葉を好きなように解釈して笑った。
はっ、奥さんを怒らせただと?怒っているのは俺の方だ。
それに、あいつが怒ったとして、何故俺が媚びを売るようにゴミ捨てしてやらなくちゃいけないんだ。
このじじぃは妻の尻に敷かれていたタイプか?一緒にしてほしくないな。
だが、この勘違いは助かった。
俺は決して非常識な人間じゃないからな。
部屋に戻り、袋を開けてキャップを外す。それからラベルを……。
なんだこれは。どうやって外すんだ?
切り取り線?ちっ、うまくつかめないな。
くそっ!めんどくせぇ。あといくつあるんだ?
20本や30本はあるぞ?
4つ目のラベルをはがす。時計を見れば、すでにいつもの出勤時間だ。
たかがゴミ捨てに、なんでこんなに時間を取られなきゃいけないんだ!
コンビニのゴミ箱ならキャップもラベルもつけたまま中を洗わなくったって捨てられるだろう!
もういい!あいつが帰ってきたらやらせてやる!
ペットボトルの入った袋の口を縛って、ベランダに出す。
あー、くそっ。あいつのせいでまた不快な思いをしたじゃないかっ!
早く帰って離婚しろっての!
ご覧いただきありがとうございます。
今回はゴミ第一弾。軽くペットボトルです。




