38 人形
「すごい、キリカ、人形もらったの初めてよ。うれしい。ずっと欲しかったの」
え?
「これ、食べずにとっておく!」
ちょっ、いや、うん。
「キリカちゃん、腐っちゃうから、食べようね?」
キリカちゃんが悲しそうな顔をした。
「腐っちゃうの?」
きゅーっと胸が締め付けられる。
なんで、私、こんなキャラ弁作っちゃったんだろう。バカバカっ!
「はー、うめぇ!キリカも早く食べてみろよ!」
カーツ君ががっつり顔の部分から口に入れてもぐもぐしている。
うん。煮詰めて塩分強くなった醤油でじゃが芋に顔書いてあるからね。おいしいよね。
そういえば、醤油味ポテチとかも売ってたな。あうのよね。醤油とじゃがいも。ああ、でもバターもあればもっと最高だったかも……。
キリカちゃんの目じりから涙が浮かんできた。
きゅぅーん。胸が締め付けられる。
そうだ!お弁当を入れてきた枕カバーを手に取る。
おしぼり芸が学生の時に流行った。おしぼりでいろいろ作って遊ぶのだ。
枕カバーでもできるだろうか?
くるくると丸めて折り曲げて入れ込んで……、できた!
「キリカちゃん、ほら、鳥さんよ、どうぞ」
キリカちゃんが枕カバーで即席に作った水鳥を見て目を輝かせた。
「わぁ、すごい」
糸とか針は小屋にあるだろうか。
冒険者として装備の点検をしているんだから、服に破れがあったらぬったりするんだよね?
あ、……だったら。
「ねぇ、ブライス君、装備点検して、服とかが破れていたらどうするの?着替えるの?直すの?」
「武器や防具などは武器屋や防具屋に修理を頼みますね。皮の鎧など自分で切れそうな紐などを交換したり、自分で直せそうなものは直しますよ。服は……店ではなくて、周りの直せる人がいればその人に依頼しますね。その時々で、宿屋のおかみさんだったり、パーティーメンバーだったり、ギルドで人を紹介してもらったり。簡単な繕い物ならパン1つくらいでやってもらえますよ」
「小屋では誰が直せるの?」
ブライス君が苦笑いする。
「うまくはありませんが僕が。まぁスライム相手にしているだけなのでめったに服が破れるようなこともありませんけど」
そうか。ブライス君にも苦手なことあるんだ。なんかなんでもできそうなイメージだったけど。ふふふ。
「っていうことは、冒険者として、ううん、冒険者でなくても縫物ができたほうがいいってことだよね?依頼するとまた契約だかなんだかで、パン一つとか必要だったりするわけでしょう?」
ボタンつけもズボンのすそ上げも、家族ならやってもらって当たり前なんだけどね。
「じゃぁ、キリカちゃん、立派な冒険者になるために夜にすこしだけ縫物の練習しようか?私が教えてあげるからね。人形を作ってあげる。キリカちゃんは人形の服を作る練習しましょう」
キリカちゃんの顔がぱっと輝いた。
「キリカに、人形?本当に?」
「立派なものは作れないけど、それでもいいならね」
キリカちゃんが小さな両手を広げて胸に飛び込んできた。
「ありがとう、あのね、キリカ、うれしいの。もう、悲しくないの、でもね、なんか、涙が……」
「えー、それ、いくらで教えてくれる?」
カーツ君が口を開く。
え?いくら?
「冒険者としての訓練の一つだから、お金なんていらないよ?ブライス君が動物のさばき方を教えるのにお金とったりしてないのと一緒よ?カーツ君やキリカちゃんが、私にダンジョンルールとか教えてくれるのと一緒よ?ねぇ、ブライス君、縫物も冒険者として必要なのよね?」
ブライスくんが目を細めた。
「ユーリさんは、本当に素晴らしい人ですね。裁縫もできるんですか」
いや、普通に家庭科の授業で習うから、基本的なことは誰でもできるよ。日本だったら。そんな尊敬のまなざしを向けられるようなことじゃないから!
「冒険者として必ず必要なことではありませんが、冒険者としてできた方がいいことには違いありません。カーツにも、そして僕にも教えてもらえますか」
「うん、もちろん」
あ!そうか。今は男子も家庭科普通にやるもんね。なんか女の子だから縫物をして、男の子だから縫物はしないみたいな思い込みがあった。
……主人は女の仕事だろうって言ってたな。
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