36 作ったもの、作ってあげられなかったもの
キャラ弁作ってみたかったの!
日本のかわいいあの子たちにキャラ弁を……いいえ、お弁当を作ってあげる機会はなかった。遠足も運動会も花見も、自分の子じゃないから……。お弁当を作ってあげるようなイベントには何一つとしてかかわれなかったから。
……。今頃どうしてるかな。
よし。
材料は少ないし、便利な型抜きみたいなものもないけど。それに、こっちの世界にはピカネズミや、キテネコみたいなキャラもない。
でも、作る。
お弁当箱はないので、深めの皿を使うことにする。スープなどを入れる皿だ。
肉巻きおにぎりを中心に据えて、じゃがいもニンジンかぼちゃを煮る。
煮てる間に、作れるかどうかわからないけれど醤油を煮詰めて水分を飛ばしていく。
夏休みの宿題で醤油から塩を取り出す実験みたいなのを昔見た気がする。本格的なものは醤油を燃やして有機物を炭にしてなんとかなんとかってやつ。小学生のものは、紙コップに醤油を少量入れて1週間ほど放置して水分を蒸発させようっていう簡単なもの。
塩が欲しい。でもない。
うまくいけば、醤油の水分を飛ばすと塩っぽいものができる。というより食べる醤油……固形醤油ができるのかな?焦げないように気を付けて。
何とか、かなり濃い醤油になった。あと一息で水分飛びそうだけど、焦がしそうでもある。
ん?
ちょうど、この濃い醤油、キャラ弁の顔とか書くのに使えそうじゃないかな?うん。よし。塩っぽくはないけど、これで十分だよね。
野菜が茹で上がる。
つぶしたりくりぬいたり、切ったり。包丁で星やハートの形を作るのは結構苦労した。
星とかハート、分かるかな?そうだ。ポーション瓶の形を作ってみようかな。えーっと。
悪戦苦闘して、なんとかキャラ弁4つ出来上がりです。
ふたもないので、平らな皿を上からかぶせる。それを4つかぶせて、使ってない部屋の枕カバーを引っぺがしてかぶせてぎゅっとふちっこを縛ってずれないようにする。
風呂敷みたいなのほしいな。
ピクニック籠みたいなのもないから、これ、どうやって湖まで運ぼうかな。
何かないかな?
食糧庫の壁には棚があり、いろいろな道具も置いてあったのを思い出して見に行く。うん、あった。何かを運ぶためのリュックみたいな形の袋。これでいいや。
それから、水筒替わりになりそうな大きな瓶を一つ。キッチンでよく洗って水を入れる。
コップもいるね。あとは箸じゃないや、フォーク。
持ち物はそれだけで大丈夫かな?
デザートもあるといいんだけどなぁ。
「ユーリお姉ちゃん、鳥の処理できたよ!来て来て!」
ドアがバターンと開いて、キリカちゃんが入ってきた。
「あのね、ご飯に使うお肉をどれにするか選んで。それ以外は干し肉にするから」
キリカちゃんに連れられて小屋の裏に足を運ぶ。この間猪を処理した場所だ。
すでに、羽など何かに使える素材と、食べられない部分と骨と肉に分けてあり、鳥の形はしていなかった。
一応、鳥の形があることを覚悟していたけれど見慣れた肉の状態で少しホッとする。吐かなくて済んだ。
「使う肉か……」
冷蔵庫があれば、冷凍庫があれば全部使うんだけどな。火を通せば今日と明日と2日は大丈夫なはず。夕飯分だけじゃなくて明日の分の肉。
えっと、今日はローファスさんも含め5人分。明日は……朝にはローファスさんとブライス君が出ていくから、3人分。
……一気に寂しくなるなぁ……。
「じゃぁ、カーツ、穴を掘ってそれを埋めてくれ。キリカは綺麗な羽根をより分けて。髪飾りなどの装飾品の材料として売れるからね」
ブライス君の指示に、カーツ君もキリカちゃんもてきぱきと動き出した。
「あ、まって、まって!骨!骨!骨!」
鶏じゃないからできるかわからないけれど、骨は捨てちゃもったいない。
結婚何年目だったかなぁ。一度だけ作ったことがある。
鶏ガラスープを。
スープの素じゃなくて骨から。
主人に褒めてもらいたくて「スープの素じゃなくてね、骨から煮込んで作ったんだよ」って。「へーすごいね」そういってもらえればよかった。
「ふぅーん。よっぽど暇なんだね」
違うよ。違う。キッチンタイマー使って、洗濯しながら、アイロンかけながら、掃除しながら、タイマーがなるたびに鍋に戻ったんだよ。いつもよりいっぱいがんばって動いて作ったんだよ。
ああ、思い出したくない記憶まで戻ってきた。




