スライムが、まさかの悪魔的アレとは
ガタガタと馬車に揺られ、そろそろお尻が痛くなってきたと思うころローファスさんが前方を指さした。
「あそこがポーション畑だ」
ん?
木々の間の先に見えるのは、木造の建物1つと、切り立った崖。
とても畑が広がっているようには見えない。
「おーい、皆元気か?新しい仲間を連れてきたぞ、仕事を教えてやってくれ。頼んだぞ!」
馬車が近づくと、3人の子供が出てきた。
5歳前後の女の子。8歳くらいの男の子。13歳くらいの男の子。
「え?お姉ちゃんが新しい仲間?」
「じゃぁ、仕事については、この子たちに聞いてくれ。俺は、この先にある中級ダンジョンと、その先にある上級ダンジョンの荷物を回収しに行ってくる。3,4日したらまた来るからなー。それまでにいっぱいポーション収穫しといてくれよ!」
と、手を振ってローファスさんは去っていった。
残された私の周りに子供たちが集まる。
「あのね、あのね、ポーションはあっちの洞窟でとれるんだよ」
「スライムを10匹くらい倒すと1個出てくるんだ。でもはずれが出てくることも多くて30匹くらい倒してやっと1つ手に入るんだよ」
「あのね、あのね、スライムをいっぱい倒すとレベルがあがるんだ」
は?
スライム?
倒す?
え?
ポーション畑で収穫って……。
モンスター倒してドロップ品回収とか聞いてない!
無理だよ、生き物殺すとか!
「えっと、これで叩いたら倒せるよ。ただ、動きが早いからなかなかむつかしいんだ」
スライムってあれでしょ?つぶらな瞳でぷるんぷるんってかわいらしいやつ。
「お姉ちゃん早く行こう!私もね、初めのうちは全然倒せなかったんだけど、1週間くらいがんばれば倒せるようになるよ!」
女の子に引っ張られて、洞窟の中に足を踏み入れた。
中は意外にも光苔とかいうものだろうか、壁がうっすらと光っていて、目が慣れるとちゃんと周りが見えるくらいには明るい。
カサカサ。
ひっ!
今の音は……。
そして、目の端に映った黒い影は……。
ひゃーっ!黒い悪魔!ゴキブリっ!
「あ、早速スライム出てきた」
は?
スライム?
「ほら、あそこ!お姉ちゃん、あれだよ!」
と、子供の指さす先。餃子みたいな大きさの黒い生き物。
黒光りするそれは、私の知っている黒い悪魔とはちがい手足がないのっぺりした形をしている。
ご、ゴキブリじゃない。なんだかゆらゆらと体が液体状に揺れているような気もする。
だけど、なのに、どうして!
カサカサカサっと音を立てて、壁を床を天井を高速移動するのっ!その動きは、まんま、黒い悪魔そのものですっ!
「ぎゃーっ、いやぁーっ!」
バシン!
「来ないでー!」
ビタンッ!
近づく黒い悪魔めがけて、次々にスリッパもどきを振り下ろす。
「す、すごいお姉ちゃん!」
「あの素早いスライムを次々にやっつけるなんて!」
素早い?確かに素早いけれど……。
私の知っている黒い悪魔のように羽を広げて飛ぶことはない。そして、洞窟内部には、逃げ隠れするための家具の隙間がまるっきりないのだ。
つまり、いつまでも私の視界に入ってるのよっ!
うわーっ。
バシン!
きゃぁーっ!
バンッ。
はぁ、はぁ、はぁ。
助けて……。
「おお、今ので8匹目!」
「そろそろポーションが出るんじゃないかな」
「お姉ちゃんかっこいい!まだ畑に入って5分しかたってないのに!」
5分で黒い悪魔が8匹も出るとか、どこの地獄ですか……。