33 異文化コミュニケーション
「ん?なんだ?」
ローファスさんが振り返る。
急いで作っておいた肉巻くおにぎりの包みを持ってくる。
弁当箱が見当たらなかったので、大きな葉っぱでくるんで、それを布で包んだ。
一応ブライス君に毒とか葉っぱにないか尋ねたら、冒険者が野宿するとき皿代わりに使ったりもするから大丈夫だって聞いた。
冒険者の野宿かぁ。
現地で、木の実やキノコや山菜を採ったりするのかな?だとすると、畑以外で収穫できる物のことも教えてもらえるといいな。
私は、スーパーに並んでいた食べ物のことしかわからないから。山ぶどうは食べられるとか言われても、山ぶどうがどんなものなのかわからない。
そういえば、蛇イチゴは食べられるんだったっけ?毒なんだったっけ?
「これ、お弁当です!」
すっと、布包みをローファスさんに差し出す。
「は?」
ローファスさんが包みに視線を落として首を傾げた。
「おべん、とう?何だ?それ?」
「え?」
なんだって、えっと。これまたお弁当を差し出すのは求愛の印とかいう異世界ルールがあったりなんか……。
やばい。
そうだよね、日本だって、プロポーズの言葉に「君の作った味噌汁が毎朝飲みたい」みたいな食べ物がらみのものがあるもん。
……まぁ、味噌汁を毎朝飲みたい人がいるかどうかは分からないけれど。
主人は、月曜は味噌汁含め和食で一汁三菜、焼き魚含む。火曜は洋食で、味噌汁の代わりにスープ。サラダとハムエッグと生のフルーツ入りのヨーグルト。水曜は中華がゆを中心とした朝食。木曜は……。
うん、毎日決まっていたからとても楽だった。今日の朝ごはんは何にしようって悩まずに済んだから。でも土日は決まって無かったから困った。夏に朝食で冷製パスタを出したら「朝から胃腸の働きを弱める冷たい食事を出すとはどういうつもりだ!」って怒られたなぁ。
おっと、思わず現実逃避で回想してたよ。
えーっと、どうしよう。
助けを求めるように、キリカちゃんとカーツ君の顔を見る。ブライス君の顔はなんとなく怖くて見られなかった。
ん?
驚いている風じゃないよね。おんなじように首をかしげている?
「ねー、ユーリお姉ちゃん、おべとって何?」
え?
「何が入ってるんだ?」
えっと……。
そういえば、日本のようなお弁当の文化は海外にはないというのをどこかで見たような気もする。
弁当じゃなければ、なんていうの?
海外だって、ピクニックにサンドイッチとか持っていくよね?学校にランチ持っていくよね?
はー、よかった。お弁当を手渡すイコール求愛じゃなくて。単に弁当って単語が分からなかったんだ。
「中身は、肉巻きおにぎりです。朝食の残りで作ったんですが……えっと、お昼にでも食べてください?」
ローファスさんの目がきらりと、いや、ぎらりと光った。
「ああ、携帯食か!俺が食べてもいいんだな!そうだよな、小屋で携帯食は食べないもんな!」
携帯食?
うーん。持っていくんだから、携帯するわけだけど……。
弁当と携帯食はなんか違う……。
あ、もしかして……。弁当なんて動き回るには邪魔だし、なんか獣だかモンスターだかを匂いで寄せ付ける危険があったりとか?
冒険者……いえ、この世界の人たちは、軽くて腐りにくく持ち歩くのに便利なものしか携帯しない?
「ご、ごめんなさい!ローファスさん!私の世界、いえ、国ではお弁当って普通だったんですけど、その、邪魔になりますよね?山道歩くのにパンに比べて重量もあるし、匂いとかでなんか寄ってきてもまずいですよね!」
さっと両手を前に出す。
「じゃぁ、行ってくる!」
ローファスさんは私の手にぽんっとドライフルーツをいくつか載せてあっという間に姿を消した。
は、早い!
「なーなー、ユーリ姉ちゃん、俺もお弁当ほしい」
カーツ君が手をあげた。
「キリカも!」
キリカちゃんもつま先出しになって手をあげた。
「ローファスさんのおいて行ったのはクコの実ですね。携帯食の交換ということですか。でしたら、僕も何かと交換していただけませんか?」




