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「うんめぇー!ユーリねぇちゃん、今までの料理もどれも美味かったけど、すき焼きも超うめぇ!」
カーツ君が満面の笑みを見せる。
「本当に、甘辛い味の柔らかな肉。脂の甘みが口の中に広がり……なんとも言えない味わいですね」
ブライス君も気に入ってくれたようだ。
「おいしいのよ。あのね、キリカ、ちゅきやき、だいちゅき!」
キリカちゃんがいつも言える「すき」という単語を上手く言えないのがかわいい。
「これだけ柔らかいと、村の歯の悪いおじいやおばぁたちも食べさせてやれるなぁ」
ダイーズ君の言葉がずきんと胸に響く。
ダイーズ君の住んでいた村の話はちょっと聞いた。
若者がほとんどいなくて……村の人たちの食料を一人で狩っていたとか……。
まだ子供なのに。
私……。自分のことさえこれからどうなっちゃうんだろう、これからどうしたいんだろうって……不安になって悩んで……。
それに比べてダイーズ君は村の人たちのこと考えて、冒険者として稼ぐのも、稼いだお金で村の人たちの食料を買いたいって……。
それを思い出して胸がぎゅってなる。
この世界で生きていくなら……私を幸せな気持ちにしてくれたこの世界に恩返しがしたい。
……なんて、ちょっと夢が大きくなってるんです。
恩返しといっても、何ができるのか分からないけれど。例えば、固い肉が食べられなくなった人のためにミンチ肉を使った料理を広めるとか?ハンバーグに、肉団子。つくね。ミンチではなくて……成形肉という手もありますね。薄切りにした豚肉を重ねて作るトンカツみたいなミルフィーユトンカツでしたか。肉を歯が悪くなっても食べられるレシピ……。
いっぱい書き留めよう。手に入れにくい材量を使わず美味しく食べられる料理……。
よし。頑張ります!
新しく目標が出来ました。この先冒険者として生きていくか、それ以外の道を選ぶかは分からないけれど、同時進行でレシピを書くことはできます。
たくさん思い出して、キリカちゃんたちと作って、ローファスさんたちに試食してもらって、レシピを仕上げよう。
「はい、熱いから気を付けて食べてね」
お皿にお肉と、お肉のうまみがしみ込んだネギや白菜を一緒に載せてミノタウレスちゃんたちの前に置く。
ふーふーと息を吹きかけているようなしぐさをしてから、ミノタウレスちゃんがぱくんとすき焼きを食べた。
「も、も、も、もっふぅーーーーんっ」
と声を上げると、隣にいた肉タウロス君の肩を前足で、ババババババババンッと叩いた。
言葉が出ずに、何かを伝えたいギャルのようなしぐさだ。
肉タウロス君もすき焼きを食べた。
「も……」
絶句したのち天を仰いで放心している。
ミノタウレスちゃんが肉タウロス君の両肩をつかんで激しくゆすった。
「もふもふもふっ」
ハッと我に返った肉タウロス君が、勢いよく肉を出した。
……うん。どうやら二人ともすごくすき焼きを気に入ってくれたみたい。それで、もっと食べたいからお肉を出してくれたってところかな?
私もいただきます。
すき焼きのネギが実は好きなのです。肉のうまみと甘辛い味のしみたネギ。




