31 肉体的に子供
「おい、待て待て、なんだそのダンジョンルール……って、あ、いや、そうか。服脱いであー、ちっ。お前たちにはまだわかんないか違いが!」
分かりますよ、私にはね。分からないのはキリカちゃんだけだと思います。はい。
でも、助かりました。
「わりぃわりぃ。しゃぁねぇ。ルールには従わないとな」
ローファスさんは部屋に戻ってシャツを着替えてきました。はい。
目に毒がなくなって一安心です。
「今日もうまそうだな」
全員揃ったところでいただきます。
あ、手を合わせるのは私だけですけどね。
「ローファスさんとブライスお兄ちゃんは食べちゃだめなの」
フォークを皿に伸ばしたところをキリカちゃんがびしっと止めにはいる。
「ああ、そういえば、料理を食べさせてもらう条件、クリアしてない」
カーツ君がポンっと手を叩いた。
「な、なにぃ?」
ローファスさんの顔が真っ青になる。
「目の前にこんなにおいしそうな飯があるのに、お預けなのか?そんなバカな……」
「お料理を手伝わないと食べちゃだめなの。ダンジョンルールみんなで協力するよ!」
キリカちゃんのダンジョンルールという言葉に、ローファスさんがテーブルに額を打ち付けた。
「あああっ!」
叫ばれてもなぁ……。
それにしても。ルール厳しいなぁ。
「ブライス兄ちゃんは、この肉取るのに協力してるしいいんじゃないか?」
カーツ君の言葉を聞いて、ローファスさんが小屋から飛び出した。
あれ?どこかへ行っちゃった。
わずか2分後息を切らしたローファスさんが戻ってきた。
「夕飯は、夕飯はこれを……」
目が血走っている。
手には、血をだらだらとたらした山鳥が3匹。
ちょっといろいろと突っ込みどころ満載なのですが……。
たった2分で山鳥3匹捕まえてくるとか!
血走った目が怖いとか!
いろいろ言いたいことはあるけれど……。
「床が汚れます!出て行ってくださいっ!」
山鳥から落ちる血、なんとかしろっ!
汚すのは簡単。掃除は大変!だからなるべく汚さないが主婦の掟だぞっ!
ちょっとイラっとしてドアを指さすと、ガーンという顔を顔面に張り付けてローファスさんが小屋の外へと出て行った。
「大丈夫ですよ。ユーリさん」
ブライス君がすっと歩み出て【浄化 床に付着した汚れよ消え去れ】と言うと、床がピカピカになった。
「す、すごい!ブライス君すごいよっ!」
手放しにほめたたえると、ブライス君が嬉しそうに笑った。
魔法すごい!絶対使えるようになりたい!
「なぁ、早く食べようぜ」
カーツ君の言葉に、ハッと我に返る。
そうだった。温かいうちに、おいしいうちに食べなければって、もうなんか結構冷めてきた……。大丈夫。まだ炊き立てご飯はあったかいです。
「ローファスさん、早く来てください。食べますよ」
外に声をかける。
「え?俺も食べていいのか?」
ローファスさんの目に光が戻る。
「精米してくれたのローファスさんですから」
「お、おう!そうだった、まずい麦を白くしたのは俺だった!キリカ、わかったか?ちゃんと俺も手伝ったんだぞ!」
にこにこ笑顔でテーブルに着くローファスさん。
「手伝いと、あとは皆と同じように料理用の火の魔法石も後で出してくださいね」
「お、おう、火の魔法石だな!100個でも200個でも出すぜ!」
そんなにいっぱい一度にいりません。
「今日のは薄切りにして焼いた肉か」
ローファスさんが早速豚肉の生姜焼き(猪だけど)をフォークにぶっさして食べた。
「うはーうめぇ!まずい麦と一緒に食べるとこの濃い目の味付けがまたたまらんな」
はいそうです。
私もフォークで豚肉と玉ねぎを口に運び、間をおかずにご飯も口に入れる。
うん。おいしい。
やっぱり生姜焼きはご飯と一緒に食べるのが最高です!そのための濃い目の味付け。
あ、違うな。キャベツの千切りと一緒に食べてもおいしいのです。ヘルシー生姜焼きに早変わり!
……。
それにしても、フォークで生姜焼きと千切りキャベツを一緒に口に入れるの難しい……。
箸が欲しい。箸が!
うぬぅっ。今すぐにでも森へ走り適当な木を取りに行きたい衝動を抑える。
食事中に席を立つなんてマナー違反。
「ああ、今日も体にしみ込む。体力が回復していく……ステータスオープン」
ローファスさんがステータスを確認する。
「相変わらずこのポーション料理すごいなぁ。ぐんぐんHPが回復していく。そうだ、これを繰り返せばあっという間にレベルアップできるんじゃないか?」
ローファスさんの言葉にブライス君が顔をしかめた。
「これっていうのはまさか、僕に魔法の訓練だと言いながらローファスさんに向けて攻撃魔法を連射させたことですか?僕の魔法の訓練じゃなくて、ローファスさんの対魔法訓練だったんじゃないですか?」
え?外でそんなことしてたの?
「いやいや、ブライスも実践訓練がつめていいだろう?素早く魔法を繰り出したり、相手の動きを予想して魔法を放ったりと、な?食事の後にもう一汗どうだ?」
にこやかに笑うローファスさん。
楽しそう、嬉しそう、訓練大好き、レベルアップうれしい、筋肉筋肉って声が聞こえてきた。
「残念ながら、僕のMPはもうほとんど残ってませんよ。ローファスさんはユーリさんの食事でHP回復するかもしれませんがね」
ブライス君の冷たい物言いにも動じず、ローファスさんはにこやかなままだ。
「おう、じゃぁ、コレ!」
ローファスさんがウエストポーチから小瓶を一つ出した。
「これ、上級MPポーションですよね。なんのつもりですか?」
ブライス君が冷たい視線をローファスさんに送る。
「なんのつもりって、これ飲めば、もう一回訓練が」
「ローファスさんには僕が大人に見えますか?これでもまだ肉体的には子供なんですけどね。上級ポーションを飲んでぶっ倒れたらどうするつもりです?」
肉体的に子供って……。
あれ?ローファスさんには実年齢明かしてるんだっけ?
って、違う、問題はそこじゃなくて、前にもポーションを子供に与えるには分量がどうのとか言ってたよね。
カフェインもそうだけど、もしかして薬みたいにもっとシビアなのかな。体重何キロなら薬は何ミリグラムみたいな感じで。
うん。
子供たちもそうだったな。体重が増えると薬の量も増える。
あれ?そうなってくると……体の小さい私はいくら大人だと言え、上級ポーションとか飲むの危険だったりするんじゃない?気を付けないといけない。
ご覧いただきありがとうございます。
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少し忙しくて感想返しができずに申し訳ありません。いつもとても楽しく感想見ています。
意外と旦那サイドを楽しみにしてくださる方がいて驚いております。まだ単なる旦那の日常なのに(笑)物語感ゼロなのに(笑)
これからもよろしくお願いいたします。




