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こくこくこくと頭を動かすミノタウレスちゃんと肉タウロス君、本当にかわいいっ。
「じゃぁ、みんなで一緒にすき焼きパーティーしましょうか!」
材料はすでにそろえてありますよ。
「え?今から作るのか?」
カーツ君がびっくりして声を上げた。
「あのね、キリカお手伝いするのよ?」
キリカちゃんが料理がまだできていないことで張り切り始めた。
「ああ、うん、違う違う。このすき焼きは、みんなで鍋を囲んで作りながら食べる料理なんだよ」
鍋文化がそういえばない地域だとなんて説明すればいいんだろうか?
「ああ、火を囲んで、肉を焼きながら食べるみたいな感じですかね?」
ブライス君の言葉に頷く。
「そうそう、それそれ!作るのと食べるのが同時進行というか、とにかく、そういうものだから。材料さえそろえばすぐにできるのよ。じゃぁ、座って座って!」
焚火を囲んで輪になって座る。
前までは、火の調整とか難しかったけれど、最近はうまくなった。鍋を置くための石を積み上げるのもうまくなったよ。
こうして、少しずつできるようになることが増えてるのが嬉しい。
「そんなもんができるようになって何の役に立つんだよ。キャンプですら今時ちゃんと道具あるだろう」
と、脳内の主人が見下した目をする。
「今役に立っているわ。必要なことが上手にできるようになることは大切でしょう?」
あ。
自分でも驚いた。
脳内の主人に、脳内の私がしっかりと言い返している。
「あのね、ユーリお姉ちゃんはすごいのよ。焚火でもお料理上手なの」
「冒険者は道具をいつでも持ち運べるわけじゃないって知らないのか?」
「ユーリさんができることのいくつのことがあなたにはできるのですか?」
脳内で、キリカちゃんとカーツくんとブライス君が私の前に立った。
「お前はいなくても全然問題ないけど、ユーリがいなくなったら困る」
ローファスさんが主人を上から見下ろした。
ふっ。ふふふ。
確かにそうだ。主人はいなくても何も困っていない。
ああ、そうだ。私は主人に守ってもらう必要はない。……誰が稼いでやっていると思っているんだなんて、二度と言われることはない。お前に何ができるんだなんて言われたって、今ならできることを色々言えるよ。もちろんできないことはある。
獣が捌けないままだし。モンスターだって倒せないし。……でも、できないことを見て、何もできないなんて言わないんだ。
私が大好きな皆は。
できることを見つけて褒めてくれる……。
もし……。日本に帰ったら。
帰ったら……。
じゅぅーっと、醤油の焼ける匂いが鼻を突く。
お肉に、砂糖と醤油と酒を直接かけて焼く。
すき焼きって「焼く」んですよ。
……と、教えてあげよう。
きっと主人は知らない。皆で鍋を囲んで……すき焼きをしよう。
主人と華菜さんと、子供達2人と5人で。
それを最後に家を出て行こう。せっかくだから。最後は美味しくて幸せな時間を過ごしたと思い出を残したい。
華菜さんには、私には主人は必要がない。いらない存在だとはっきり言おう。慰謝料とかそういうのもいらない。仕事をすぐに探そう。きっと見つかる。
この世界で5歳児レベルだと言われても仕事は見つかったし、幸せなのだもの。




