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……そうだ。レベルを上げて冒険者になったとしても。すごい魔法がつかえるようになったとしても。
どんな仕事をするようになるか分からないけれど、拠点はあの小屋。ローファスさんやブライス君が、仕事をして顔を出してまた仕事に行く……。
そんなふうに、私もずっとあの小屋を拠点に生活し続けよう。遠くには行かない。他に家もいらない。
キリカちゃんやカーツ君が旅立ったあとだって、持ち主のローファスさんは顔を出すだろうし、新しく入って来た子供達もいるだろうし、気r加ちゃんやカーツ君だって、ときどき顔を出してくれるだろうから……。
うん。決めた。決まった。
私、この先の目標。レベルを10まで上げて、あの小屋と行ったり来たりできる仕事をする!って、どんな仕事があるのか。どんな仕事ができるのか……。結局何も決まってない……あはは。まぁ、まだ先だものね。今レベルいくつだっけ。
……って、ハンノマさんの包丁で思いのほか早く上がったんだよね。まずいまずい。
ハンノマさんの包丁でほいほいレベルが上がるのまずい。あっという間にレベル10になって冒険者になって小屋を出ることになるなんていやだ。
最弱の冒険者になるのもダメだけど、もう少し長く小屋にいたいんだよ。
って、大丈夫か。あの時は緊急事態でなんか包丁を使わざるを得なかったけれど、そんなに強くてブライス君やローファスさんですら危険に陥るようなモンスターがそんなにホイホイ出てくるわけないもんね!
それにしても……。
「ごめんね、ミノタウロスはやっぱり危険だったね……」
私が肉に目がくらんでしまったせいで。
倒せるなら倒してしまって危険を排除しないと。
でもなぁ……。
ミノタウロスに視線を向ける。
巨大化していない時は、ミノタウレスちゃんとほぼサイズは変わらない。中型犬サイズのもふもふな牛だ。
つぶらな瞳が可愛らしい。頭に申し訳程度の角を生やしているんだけど、その角すら柔らかそうに見える。
そのかわいい生き物を殺すの……か。
ミノタウレスちゃんがミノタウロスに何か話をしている。
「モッフゥモフモフモッフー」
「モウゥーモウモモモ」
「モフッ」
「モウーーーーモゥ……」
「モフモフッ」
会話の内容は全く分からないんだけれど、仁王立ち……2足でも立てるのね、ミノタウレスちゃん。
ミノタウレスちゃんが仁王立ちになって、右前足を突き出して怒ったように肉タウロスに強めの口調で話をしている。
肉タウロスはうなだれて、話を聞き、次第に土下座のような形になってぺこぺこと頭を下げている。
……説教されて謝っているようにしか見えない。
と、見守っていると、肉タウロスが、肉を出した。
え!?ミノタウレスちゃん、攻撃される!危ないっ!と思ったら、放たれた肉に勢いはなく、ミノタウレスちゃんの手の上に積み重ねられるようにして出された。
ん?
ん?
んん?
2匹……2頭?2体?は、2足歩行でとてとてと私たちの前まで歩いてきた。
そして、ミノタウレスちゃんは両手の上に載せた10キロほどもありそうな霜降り牛をすっと私に差し出し、その隣の肉タウロスは土下座。
こ、これって……。
「モフゥ、モフモフゥ」
……っていうミノタウレスちゃんの言葉。彼も反省しているみたいなので許してください……みたいな。
「モウモモモウウウッ」
っていう肉タウロス君の言葉は、スイマセンでしたっ!っていう猛省した言葉に聞こえ……。




